錦織圭、3年ぶり全仏OP出場のリスクとリターン「100位以内の選手に簡単には勝てない」
【シュワルツマンとティームの引退に思うこと】 そのシナーと今回打ち合い得た感触を、錦織は次のように語っている。 「画面で見るのと、正面で向き合い対峙するのでは、印象が違って......やっぱり、強い。フォアでもバックでも、どこからでも叩き込める。バックはフラットに見えるんですが、アングル(鋭角)にいいのが入ってくるので、それが彼の強みでもある。思いっきり打っているようで、何でもできるのが強いところだなと」 押し寄せるニューウェーブは、テニスシーンを塗り替えて、旧来の選手たちを押し流していく。それは、避けようのない時間の摂理だ。ただ去り行く一群に、ティームとシュワルツマンがいる事実に、錦織はショックを隠さなかった。 「正直、シュワルツマンとティームの引退には、ちょっとくらいましたね。まあ最終的には、もちろん自分が楽しくなくなったらやめればいいかなと思っていますが、やっぱりこう......、自分の同志というか、さらに若く可能性があるふたりがやめるというのは。 結果が出ない、ケガがつらいのはメンタル的にもくることだし、納得はできるんですが、気持ち的には正直、くらったところはあります」 同志たちの姿と心に、自身を重ねるように言葉を紡ぐ彼は、最後は自分に問いかけるように言った。 「最終的には自分の気持ちなので、他人がどうこうではないんですが」......と。 24日に本戦ドローが確定した結果、錦織の初戦の相手は、予選上がりのガブリエル・ディアロ(カナダ)に決まった。昨年までアメリカの大学リーグで戦っていた、カナダ国籍の22歳。ランキングこそ166位だが、身長2メートル超えの大器は、勢いに乗せたら怖い存在なのは間違いない。 今大会に求める「ハイリターン」の内訳を、錦織はこう明かす。 「緊張する場で戦えることと、自分のために証明できる場にもなる。そういう意味では、いいプレーができれば気持ち的にも得られるものがある」 時代の奔流から一歩引き、その趨勢(すうせい)をどこか客観的に見ていた錦織が、世代交代の渦の中に身を投じ、自身の存在証明を赤土に刻みにいく。
内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki