考察『海に眠るダイヤモンド』4話。折り重なるさまざまな「沈黙」
すべて人間のしわざ、ドラマというかたちの祈り
2話の台風の日、百合子が十字架もろとも窓の外に投げ捨てたメダイ。幼い頃母から首にかけられ、以来身につけていた、百合子にとって恨む対象でもすがる存在でもあったメダイを、賢将が見つけて渡してくれた。母の葬儀の日、「悲しくないの。ようやく楽になれた」と言う百合子に、賢将がポケットから取り出そうとした手を止めたのは、このメダイだったのか。葬儀のときも泣かず、和尚の前でもついぞ涙をこぼさなかった百合子は、初めて声を上げて泣く。 母の死を悲しむことができ、賢将が自分の気持ちを知っていてくれることがわかった百合子は、精霊流しに朝子を誘う。自宅で、朝子に浴衣を着付けながら「ごめんなさい」と言う百合子。 「あなたに許されたい。あなたが許してくれなくても、私は許すわ」 「奇跡は人が起こす」 和尚は百合子に言った。 「神も仏もね、何にもしないとよ。何かするのはみんな人間のわざ。人を生かすも殺すも、みんな人間がすることよ」 すべて人間のしわざ。人間は戦争もするけれど、奇跡を起こすこともできる。盆踊りを踊る百合子と朝子の姿、さまざまな人の思いをのせた精霊流し、慰霊の花火に重なる、鉄平のナレーション。この1時間こそが、ドラマという形をとった祈りだ。
「沈黙」といえば遠藤周作の小説
4話のサブタイトルは「沈黙」だった。 「もろともにあはれと思へ山桜花よりほかに知る人もなし」 3話から登場した百人一首のこの歌。けれど、このドラマで「花よりほかに知る人もなし」なのは、愛しい思いだけではない。あらゆる人が、さまざまな思いを抱えて沈黙している。 朝子がきっかけとなった百合子一家の被爆のこと。 鉄平の父母の、子どもへの思い。 進平(斎藤工)が経験した戦争。 リナが持っていた、不自然な大金と拳銃。 リナの秘密を目撃した進平は、誰に告げることなく、精霊流しのお供えを食べさせて存在しない「掟」を通じ、黙って島を出ていこうとしていたリナを引き止めた。 現代のいづみ(宮本信子)も、玲央(神木隆之介、二役)を「次期社長候補」にした魂胆や玲央との関係を誰にも秘めている。 そして、「沈黙」といえば遠藤周作の小説だ。江戸時代の長崎でのキリシタン弾圧と信仰について描かれた名作。踏絵を踏むことで神の教えを理解した主人公を、母を亡くして「許すこと」を知った百合子に重ねてしまう。 心に深く刻まれた4話。その中で、いづみと玲央の関係を解き明かそうとする、コミカルで軽やかな演技を見せた尾美としのりら現代パートのことも忘れずにいたい。 ●番組情報 日曜劇場『海に眠るダイヤモンド』(TBS) 脚本_野木亜紀子 演出_塚原あゆ子、福田亮介、林啓史、府川亮介 プロデュース_新井順子、松本明子 出演_神木隆之介、斎藤工、杉咲花、池田エライザ、清水尋也、土屋太鳳、宮本信子 他 音楽_佐藤直紀 主題歌_King Gnu『ねっこ』 U-NEXTにて全話配信中(有料) ●釣木文恵/つるき・ふみえ ライター。名古屋出身。演劇、お笑いなどを中心にインタビューやレビューを執筆。 Edit_Yukiko Arai
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