バイオリニスト川井郁子が和楽器奏者と源氏物語の世界を再現…「見たことのないような舞台にしたい」
日本の文化と西洋音楽の融合に取り組んできたバイオリニストの川井郁子が、源氏物語をテーマにした音楽舞台に力を注いでいる。ザ・シンフォニーホール(大阪市北区)で来年3月28日に開催する公演では、和楽器奏者とともに名場面を再現する予定で、「見たことのないような舞台にしたい」と意気込む。
長く西洋音楽の世界で生きてきた川井が、初めて自身の音楽に尺八を取り入れた時、「宇宙的な広がり」を感じたという。「自らのアイデンティティーをもとにコラボするのは、すごく大事なんじゃないか」と感じ、和楽器奏者と積極的に共演してきた。
ここ数年は、紫式部の源氏物語を題材に、文学との融合も試みる。3月の公演の目玉は、作家・林真理子の小説「源氏がたり」を基にした「車争い」の場面だ。光源氏を愛する六条御息所と正妻・葵上が、葵祭の行列にいる源氏を一目見ようと牛車の駐車場所を取り合う様子を、演奏と語り、演技でよみがえらせる。「怨念や嫉妬のような感情がどろどろと出る場面。平安時代の装束を身につけた奏者たちのたたずまいも堪能してほしい」と話す。
香川県出身。幼い頃からバイオリンに親しみ、東京芸術大に進学するも、「自分というバイオリニストがこの世にいる必然性は何だろう」と考えるようになった。悩む中で出合ったのが、アルゼンチンのタンゴとクラシックを融合し、独自の世界を紡いだ作曲家、ピアソラの音楽だった。「自分のジャンルを追求する強烈な姿」に、はっとさせられた。
2008年には「白鳥の湖」を和楽器を使って自らアレンジした「ホワイトレジェンド」をアルバムに収録した。チャイコフスキー作曲のバレエ音楽だが、聴いていると「なぜか、着物を着た昔の女性の姿が浮かんできた」。もの悲しくも力強い旋律は、フィギュアスケーターの羽生結弦の演技でも有名になった。
公演には川井のほか、 篠笛しのぶえ の藤舎推峰、琵琶・尺八の長須与佳らが出演。後半には和楽器の紹介コーナーを設け、ホワイトレジェンドも演奏する。