「殴っても、命を奪ってもおかしくなかった」27歳で父の認知症に向き合ったハリー杉山「発症しても人生は終わらない」と悟って
当時、友人には介護を経験している人はいなかったので、相談できる人がいなくて…。家族だけで抱えこみ、2015年に施設に入居するまでは在宅介護をしていました。
■限界がきて「穴が開くほど壁を殴ったことも」 ── 在宅介護をしていたときの様子を教えてください。 ハリーさん:大好きな父のため、僕も母も献身的に介護をしていました。仕事以外のすべては、父と向き合っていたと言っても過言ではありません。自由になる時間はほとんどありませんでした。
でも、自分たちでなんとかしようと思えば思うほど、追いつめられていくんです。精神的にも極限状態になったし、体調もよくなくて仕事のパフォーマンスも悪くなりました。真剣に向き合うからこそ、父に対するいらだちも増して…。「なんでこんなに簡単なこともできないの?」と怒ったことも。イライラするあまり、穴が開くほど壁を殴ったこともあります。いま思えば父自身を殴っても…いや、命を奪ってもおかしくない精神状態でした。父自身もわからないことが増えて混乱し、家族は振り回されてしまって…。完全に悪循環におちいっていました。
── 2015年、介護施設への入居を決めたのはなぜでしょうか? ハリーさん:このままだと家庭が崩壊すると思ったからです。僕も母も限界を超えていました。父は認知症、パーキンソン病と診断されていました。パーキンソン病は脳の異常のため、体の動きに障害が出る病気です。だんだん体がコントロールできなくなり、歩行困難やトイレが間に合わないといった症状が出てきました。その一つひとつをフォローするだけでも精いっぱい。しかも物忘れが増えた父は、母が誰なのかわからなくなり、着替えの途中で殴りかかることもありました。
家族だけで支えるのはムリだと思い、日中だけデイサービスを利用することになりました。そこで、ようやく母も僕も自分の時間を持てたんです。2015年、介護施設に空きができ、入居しました。日本では「家族で介護するべき」といった価値観があるように思います。でも、そうした精神論を美徳とするのは、すぐにやめるべきだと身をもって学びました。自分たちを追いつめると家族は崩壊するし、待っているのは地獄です。早い段階から行政などの助けを借り、相談するべきだと心の底から思います。