昭和的「日本企業」は人事改革で解体される? 若手社員への配慮と、シニアの活性化が注目される背景
人事制度の改革は「日本企業」の解体と表裏一体か
これらキャリア自律型の人事制度は、大手企業間で争奪戦となっている新卒採用と、若年社員の流出防止が大きな目的となっていることは間違いありません。ひと昔前までは、配属先の希望が通ることなどレアで、基本は会社の都合であっちへ行ったりこっちに来たり。それでも転職などままならぬ時代は、じっと我慢で突き通す以外になかったのです。 しかし今時は、希望が通らずに即刻勤務先を変えることもごく普通の考えであり、新卒者が「配属先辞令を見て内定時に伝えた希望が通らなかった」と、即時退職するケースまで出ているのです。 このように見ると、今様の若年層社員の扱いに注意しながら、足りない部分はシニア層社員の活性化で埋め合わせる――つまりキャリア自律型人事制度とシニア優遇人事制度とは、実は地続きであることが分かります。もう一つ気に留めるべきは、ここ1~2年で目立った人事制度の改定を行ったのが、昭和の高度成長期から日本の経済発展を支えてきた企業ばかりということです。このことは一体何を意味しているのでしょう。 戦後の経済成長期に形成した、終身雇用と年功序列をベースとした日本的人事制度は、独特な企業組織文化を醸成してきました。そしてそれは、高度成長期からバブル経済が弾けて低成長に移行した後も、脈々と大手企業の中で生き長らえてきたのです。 しかしながら、外圧や経済的な変革には動じなかったこの日本的組織文化も、少子化に働き方改革、人生100年時代といった働く側の価値観の変化を伴う変革に、遂に従わざるを得なくなったのではないかと思うのです。 考えてみれば、キャリア自律の施策などは、ベンチャー企業を中心として今の時代に成長している新興企業では既に組織運営の「常識」であるともいえ、昭和企業たちが古いよろいを着替えるターニングポイントの象徴にも思えます。昭和企業の日本的組織文化は、ここ10年来、名門企業で相次いでいる不祥事の温床としてもたびたび指摘され、その変革の難しさもまた都度語られていると記憶しています。 個人的には、時代の流れにいよいよ抗えなくなった昨今の古い人事制度の改訂は、昭和由来である独自の組織文化を大きく変えるきっかけにもなり得るのではないか、との期待感も持って受け止めている次第です。 著者プロフィール・大関暁夫(おおぜきあけお) 株式会社スタジオ02 代表取締役 横浜銀行に入り現場および現場指導の他、新聞記者経験もある異色の銀行マンとして活躍。全銀協出向時はいわゆるMOF担として、現メガバンクトップなどと行動を共にして政官界との調整役を務めた。銀行では企画、営業企画部門を歴任し、06年支店長職をひと区切りとして円満退社した。その後は上場ベンチャー企業役員などとして活躍。現在は金融機関、上場企業、ベンチャー企業のアドバイザリーをする傍ら、出身の有名超進学校人脈や銀行時代の官民有力人脈を駆使した情報通企業アナリストとして、メディア執筆者やコメンテーターを務めている。
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