昭和的「日本企業」は人事改革で解体される? 若手社員への配慮と、シニアの活性化が注目される背景
レガシー業界も少しずつ変化
さらに驚くのは、人事制度においても人一倍「お堅い」印象が強かった金融業界でも、同じような動きが出ていることです。 銀行ではこれまで、50歳を超えると関連会社や取引先への転籍出向が既定路線とされ、年収が大幅に減るのが当たり前でした。一方、三井住友銀行では2025年度中をめどに新人事制度をスタートさせる予定で、そこでは現状51歳で給与減となる制度を撤廃して50代以降も実績に応じて給与が増える仕組みに改め、60代でも支店長に就けるなど、シニア層の処遇を大幅に見直すとしています。 保険や証券業界も同様です。明治安田生命では、シニア層にも役割に見合った給与を支払う制度に改め、かつ内勤職の定年も65歳から70歳に引き上げる方向で労働組合との協議に入っているといいます。証券業界でも岡三証券が、現在は65歳となっている雇用上限年齢を撤廃し、70歳でも支店長職を務めることが可能な人事制度を2025年度から始めると発表しています。金融業界は「横並び意識」が強く、シニア待遇改革を盛り込んだ人事制度改定は、今後大きく広がりをみせるのではないかと思われます。 このように、業種を問わずシニア層に対する「優遇措置」ともいえそうな人事制度の改訂が相次いでいるのは、企業の人手不足感、特に若年層に対する不足感の高まりが大きな要因であるのは間違いありません。この先も少子化による若年人口の減少はいかんともしがたく、シニア層の活性化により若年層の人手不足を解消する意図が見てとれます。「人生100年時代」を迎え、国が2021年の改正高年齢者雇用安定法により、70歳までの就業機会確保を「努力義務」としたことも、これを後押ししているといえます。
若年層向けは「キャリア自律」がテーマ
産業界で相次ぐ人事制度改定は、シニア層の活性化策を講じる一方、若年層に対しても新たな労働環境を与える施策を打ち出しています。特に目立つのは、キャリア形成を会社主導にせず、社員自身が決めていく「キャリア自律」の施策です。 冒頭の日経新聞調査によれば、社員が就きたい職種や職務を申請する「自己申告制度」がある企業は70.5%。2018年時点より5.8ポイント上昇しています。また、自発的な異動を実現するための「社内公募(FA制度)」がある企業も、同14.1ポイント上昇の62.8%となっているのです。 大手商社の三菱商事では、公募制度だけでなく社員が自分の意思で希望する部署に自己推薦で異動を願い出られる制度をスタートさせています。2023年度は47人がこの制度で異動したとのこと。また、全業務量の15%までなら本業と異なる業務を担当できる「デュアルキャリア制度」も運用済みです。これも基本は自己申告によるものであり、多様なキャリアを自発的に身に付けることを通じて、社員のモチベーション向上を狙っているわけです。ちなみに先の調査で、社内副業については約2割の企業が導入済みと答えています。 先に紹介した新人事制度をスタートさせた日本ガイシでも、他部門の募集に自らの意思で応募できる社内公募制度の対象を全基幹職に拡大するとともに、部門ごとの職務内容に必要なスキルを記載したジョブディスクリプションを開示。応募の活発化を後押ししています。 さらに、他部門からの直接スカウトに対して自身の意思で応募できる社内スカウト制度も新設し、人事担当役員は「会社としては適材適所を進めつつ、社員自身はキャリアを広い視点で検討できる」とその狙いを話しています。 ヤマハ発動機の新人事制度では「個人が目指すキャリア、チャレンジの実現」を掲げています。具体的には、個人の強みを生かした自律的なキャリア形成を目標に「役割を越えたチャレンジに取り組む行動や結果を評価すること」「職位の在級年数の廃止や飛び級導入などにより人事運用の柔軟化を図ること」などを通じて、社員の適性や志向を生かした自律的なキャリア形成を後押しするようです。