「英国で『脳腐れ』が深刻に デジタル認知症のリスクにご用心」ブレイディみかこ
英国在住の作家・コラムニスト、ブレイディみかこさんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、生活者の視点から切り込みます。 【写真特集】大物がズラリ!AERA表紙フォトギャラリーはこちら * * * オックスフォード大学出版局が選ぶ2024年の「今年の言葉」が「brain rot(脳腐れ)」に決まった。その意味は、特にオンラインでの、些末で頭を使わなくていいコンテンツの過剰消費の結果、精神状態や知性が劣化したと思われる現象のことだという。大学生の息子も24年はよく口にしていた印象があり、「脳腐れ」はZ世代やその下のα世代に使われている言葉だそうだ。 ガーディアン紙によれば、英国の成人の平均的な1日あたりオンライン利用時間は少なくとも4時間で、Z世代の男性は5時間半、Z世代の女性は6時間半になる。ネットばかり見ていると脳に悪い気がすると感じる人は多くても、それが実際に脳の灰白質(神経細胞の細胞体が集まっている領域)に与える影響はあまり知られていなかった。 近年、ハーバード・メディカルスクールやオックスフォード大学、キングス・カレッジ・ロンドンなどの研究で、インターネットの影響で灰白質が縮み、集中力の持続時間が短くなって、記憶力が低下し、認知プロセスに歪みが出てくるエビデンスが見つかった。ネット依存症の人々には「構造的な脳の変化」や「灰白質の減少」が見られ、脳が成長する年代でのテクノロジーの使い過ぎは「デジタル認知症」になるリスクを冒していると言及する学者たちもいる。 こういう事実が科学的にわかってきたのは恐ろしいが、とは言え、「わかっちゃいるけどやめられない」のが今日の大人たちだ。だが、生まれた時からスマホやSNSが存在し、最も長い時間をネットに費やしているティーンや若者たちこそが、この言葉を流行させたことには新たな兆しが見える。オックスフォード・ランゲージズのキャスパー・グラスウォールは、「脳腐れ」が「今年の言葉」に選出されたことについて、「ヒューマニティーとテクノロジーをめぐる文化的議論が、進むべき次の章に入ったという感じだ」とコメントしている。 選挙や戦争などとネットの関係が取り沙汰される今、ネットにどっぷり浸かって育った世代は、「人間性」と「テクノロジー」の境界やバランスについて考え始めている。25年には、さらに顕著になる動きかもしれない。 ※AERA 2024年12月30日-2025年1月6日合併号
ブレイディみかこ