現場への「移動時間」は労働時間に入るのか? 電気工事会社へ「賃金支払い」求める社員2人に裁判所が下した判断は
これも労働時間では?
この時間は労働時間にあたるのでは? と争われるのは移動時間だけではなく、さまざまなケースがある。 ■ 着替え時間 着替え時間は労働時間にあたると、厚生労働省のガイドラインでも述べられている。 ==== 使用者の指示により、就業を命じられた業務に必要な準備行為(着用を義務付けられた所定の服装への着替え等)や業務終了後の業務に関連した後始末(清掃等)を事業場内において行った時間(労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン) ==== 実際の裁判でも、下記のように制服へ着替える時間について、賃金の支払いが命じられている。(東京高裁 R3.3.24) ・ICカードを打刻 ・制服に着替える ・AM 7:10ころ ラジオ体操の音楽が流れる ・AM 7:15ころ 朝礼開始 ・AM 7:20ころ 朝礼終了 さらに、近年ではIKEAやスシローの社員が「着替え時間の給料が払われていない...」として会社に申し立てた事件もある(関連記事参照)。 これらは、おそらく氷山の一角なので、着替え時間について賃金が支払われていなければ請求できることを押さえていただければ幸いである。 ■ 待機時間 待機時間についても、労働から解放されていない、すなわち【会社の指揮命令下に置かれている時間】と判断されれば、賃金請求が認められる。 近年の裁判では、駐車場メンテナンス会社での事件がある(札幌高裁 R4.2.25)。 会社は、顧客に対して24時間365日の緊急対応を約束しており、社員は待機時間であっても顧客から電話が入ると速やかに現場へ向かうよう義務付けられていた。地裁では社員が敗訴したが、高裁は一部の待機時間を【会社の指揮命令下に置かれている時間】と判断。事実関係が同じであるにもかかわらず、会社の指揮命令下に置かれているかの判断が一審と二審で真逆となったケースだ。余談だが、運が裁判の結果に影響を与えることも少なくない。 ■ 昼休み中の来客当番 昼休みなのに、来客があれば対応させられていた事件もある。薬剤師のケースだ。 裁判所は「休憩時間になっても30分くらいは顧客対応していた。この分、残業代を払え」と判断(東京高裁 H29.2.1)。「休憩時間でも来客対応しなさい」と暗にプレッシャーをかけられていたようだ。 移動時間、着替え時間、待機時間、昼休み中の来客当番のように、実際は業務をしていなくとも【会社の指揮命令下に置かれている】と判断されれば労働時間にあたり、賃金が発生する。参考になれば幸いだ。 林 孝匡(はやし たかまさ) 【ムズイ法律を、おもしろく】がモットー。情報発信が専門の弁護士です。 専門分野は労働関係。好きな言葉は替え玉無料。
林 孝匡