「こういうものを作る人が人を笑顔にする」3度バズったガチャ企画者 幼少期は「おもちゃで遊ばなかった」
シリーズの最初は「ぶっとび!」…仕掛けは
「ぶっとび! ひざカックン」のきっかけについて尋ねると、宇都宮さんは「実は『ひざカックン案』は、当初、社内企画会議では選ばれなかったんです」と教えてくれました。 しかし宇都宮さんは、翔洋ジャパンの強みである 「工場が母体」という特性を生かしたいと考えます。「開発や組立工程の多い製品も手掛けられることを活かし、何とか自分が欲しいと思うものを形にし、人を喜ばせたいと思った」 そこで、ひざカックンの楽しさを伝えるために、宇都宮さんは半ば独断で試作品を作ってリーダーに見せました。 「絵だけでは伝わらなかったのですが、実際に動きを見せることで、共感してもらえました」(宇都宮さん)。 案が採用されると、宇都宮さんはさらにディテールにこだわります。「ぶっとび! ひざカックン」は、一見簡単そうに見えるデザインですが、実は試行錯誤が求められる商品。 カックンするギミック以外にも、手の可動域が多く、また、レゴへのオマージュとして、パーツが取り付けられるように工夫されています。 ただし、ガチャガチャは収益が見込みにくい上に、薄利多売で大量に注文されないと厳しい業界です。そのため、宇都宮さんは、普段は外注先に頼む試作品のパーツも自分で作り、寝る間を惜しんで完成まで進行したそうです。 「手が動くだけでも、いろいろな遊び方が広がるんです。メモを挟んだり、レゴのパーツを持たせたり。子どもも大人も笑顔で楽しめるようにしました」(宇都宮さん) その結果、「ぶっとび! ひざカックン」は多くの人の心を掴み、2024年4月にXで13万いいねがつくほど、反響がありました。その反響もあり、 宇都宮さんはシリーズ化に挑戦します。キャラクターを増やしたり、新たな仕掛けを加えたりすることで、飽きさせない工夫を続けています。
YouTubeにコメント「人を笑顔にする」
今回紹介するのは、7月に発売したひざカックンシリーズの「パカッとひざカックン~かえる編~(以下、かえる編)」です。 かえる編はひざカックンの要素に加え 、「口がぱかっと開く」というギミックが追加されています。 宇都宮さんは「ひざカックンは構造上足が長くなるため、『カエルが合うね』という友人の助言もあり、最初からシリーズ候補には入れていました」と話します。 しかし、今まで販売前の受注数と追加の金型費を見るとやはり採算が取れないことが判明。会社では「何をやっているんだ?」という反対ムードになっていたのだといいます。 その反対ムードを覆すため、他の商品で新規受注をとったことを元手に、どうしても実現させたかったガチャガチャの発売も了承してもらったのだそう。 かえる編は、発売直後にXで23万いいねがつき、売り場では完売が続いたそうです。そして、10月に再度Xで19万いいねと大きな反響を呼びました。これは、宇都宮さんのものづくりへの情熱と覚悟が多くの人に伝わった結果だと思います。 さらにかえる編は、YouTubeでも取り上げられ、「YouTubeのコメントのなかに、『これを考えた人スゲー』、『こういうものを作る人が人を笑顔にするんだね』、『世界は戦争で溢れているのに、日本はこのしょーもなさで笑顔にしている』というコメントを見たとき、思わず泣いてしまい、自分のやってきたことが少し救われた気がしました」(宇都宮さん)。 ちなみに、宇都宮さんにはもう一つの顔があります。それは、ギターの弾き語りユニットでの音楽活動です。その活動は、ガチャガチャ作りと同じく「人を喜ばせる」ためであり、自分を好きに表現してよい場所、まさに情熱そのものだと感じました。 第1弾「ぶっとび! ひざカックン」から始まったひざカックンシリーズは、人の心を動かし笑顔にしたガチャガチャでした。 ◇ 「パカッとひざカックン~かえる編~」は、ミドリ、ダイダイ、アオ、キイロ、ムラサキの5種類。1回300円。 ◆この連載は、20年以上業界を取材しトレンドをチェックしているおまつさんが注目するガチャガチャを紹介していきます。 ◇ ガチャガチャ評論家・おまつ(@gashaponmani) ガチャガチャ業界や商品などをSNSで発信中。著書に「ガチャポンのアイディアノートーなんでこれつくったの?ー」(オークラ出版)。テレビやラジオなどのメディアへの出演や素材提供も多数ある。