ホームセンターの生き残りをかけたPB戦略 大手メーカーが支配する市場参入のカギは細分化
◆商品細分化やSNSでバズるデメリットも…奇抜さを無くした生活空間になじむパッケージで人気も
一方、細分化しすぎたことで逆に売れなかった商品もある。 「襟袖洗剤でも、ピンポイントで塗るスティック、広範囲にかけるスプレーなどタイプを開発しましたが、ニーズがわかれてしまいました。このようなケースにおいては細分化しすぎるよりも、用途を絞ってまとめることも課題としてあります。売れなかった商品は原因究明から改良を進め、ブラッシュアップを計画しています」(中村さん) 同シリーズの最大の強みは、プロ仕様の機能を家庭向けの手頃な価格で提供していることだろう。生活者にとって、使用用途によって確実に汚れを落とす専門的な洗剤のハードルを下げた功績は大きい。そんな機能性に加え、『2022 グッドデザイン賞』を受賞するなどパッケージデザインにもこだわった。 「一般的な洗剤は目立たせるパッケージが主流ですが、このシリーズはどなたでも気軽に手に取りやすく、生活空間になじむ白を基調にしたシンプルなデザインにしています。その結果、SNSでも話題になったことで10代の学生さんなど若い方にも認知され、幅広い年齢層の方に使っていただけるシリーズになりました」(中村さん) SNS映えの影響力を感じる一方、バズることで商品の生産、店舗への供給が追いつかず、世の中の盛り上がりに反して会社としてのデメリットも感じているという。そうした中、中村さんが商品開発に活かすのは、顧客や店舗メンバーのリアルな声だ。
◆“モノを並べて売る”ビジネスモデルが通用しない時代 “モノ”から“コト”売りにシフト
カインズの生き残りをかけた戦略の1つがオリジナル商品になるが、同時に2018年から強化するDX化によるデジタル購入体験の拡大にも注力している。オンラインショップや、売り場検索機能を備えたアプリのほか、専用のロッカーを設置したネットと連動する取り置きサービスは、コロナ禍以降、店舗に入らず買い物が完結する利便性から利用者が増えているという。デジタルシフトによって顧客の利便性をより拡張している。 “ただモノを並べて売る”ビジネスモデルが通用しなくなった時代において、カインズが未来を見据えて注力していることを聞くと、星野さんはこう答える。 「2023年に『くらしDIY』をブランドコンセプトに掲げました。くらしは創意工夫でもっと楽しくなるというメッセージを込めています。時代とともに価値観も多様化し、一人ひとりの考え方が変わっていくにつれて商品の売れ行きもどんどん変化していきます。そんな中でも、我々の知識や経験をもとにお客様をサポートし、アイデアを届けていくことで、カインズなら「やりたいことが見つかる」と思っていただけるような存在になりたいと思っています」(星野さん) そのなかには、現状のカインズが抱える課題もある。 「いまは弊社がホームセンター業態を立ち上げた40年前と全く異なり、モノを置くだけで売れる時代ではなくなっています。お客様の生活の中には、見えていない困りごとや解決したいことなどへの潜在的な意識があり、それは商品だけでなく、行動にも共通している課題です。我々はそれをお客様の背景から意識したうえで、より楽しく便利で豊かな生活になるように、スピード感を持って解決していくことを使命に掲げています」(星野さん) 意図的にモノを減らす「ミニマリスト」が注目される一方、好きなものの装飾で部屋を埋め尽くす「推し活」も一般的になり、ライフスタイルの多様化が時代の流れとしてある。そうしたなかで、ホームセンターの新たな役割もあるようだ。 「カインズはお客様のくらしを支えるまちのライフラインの役割を担うとともに、お客様のくらしをより楽しく、自分らしくすることを重視した時に、必要なことを提案したいと考えています。その第一歩が『くらしDIY』です。いまは実現に向け改革中ですが、部署を横に横断した商品開発体制を整えています。カインズはホームセンターという枠にとらわれない挑戦を続けていきます」(星野さん) (文/武井保之)