なぜ人は「貨物列車に乗りたい」のか…医療ジャーナリストが貨物列車の添乗記を執筆した意外な訳
災害時などは貨物列車が走れないことも当然ある。 「西日本大豪雨で長期運休となった貨物列車の運転士が、貨物駅でトラックの誘導係をやったこともあるそうです。いかなる手段を講じてでも、荷主から預かった荷物を届けることが1番の目的なので。 また、同じ西日本大豪雨の際、山陽本線が長期にわたって走れなくなり、普段貨物列車が走らない山陰本線を迂回して走らせたこともある。 ただし、普段走ってない場所を走るには、運転士も一定のトレーニングをしなければいけない。単に信号機だけを見て運転するのではなく、周りの景色を見ながら、ブレーキをかける場所など全部頭に入れなければ運転できなんです」 貨物列車の運転士にとって、実は景色は非常に重要なのだと言う。 「例えば、あの建物が見えたらこの先危険な箇所がある、といったことを運転士は記憶しています。彼らにどこの景色が好きですかと聞くと、一応『尾道の海の見えるところ』とかって答えてくれるけど『景色は見ていられないんですよ』とも。景色が綺麗なところほど危険も多く、しっかり信号を見ないといけないんですね」 また、夜中に走るからこその怖さもある。 「夜中に動物、特に鹿などが鉄分を補給するため線路を舐めに来て接触することもあるそうです。そうすると貨物列車は運転士が1人乗っているだけなので、長い編成の列車を 1人で懐中電灯を持って点検しなければならない。深夜に山奥で何か生命体に接触したとして、それが動物とは限らない……。怖いですよね」 ◆奥深い「貨物列車」の世界 荷物は基本的に長距離を鉄道や飛行機、船が運び、近距離をトラック輸送するのが現在の流れ。中には、往路と復路の需給バランスから生まれた列車もあるそうだ。 「金沢から大阪に行くときは満載で、帰りが空という列車があった。これをなんとかしたいと考えていたところに、2つのビール会社から『名古屋から金沢に製品を運びたい』という話が来た。名古屋から金沢に行く列車にはあまり余裕がないが、大阪から金沢に行く貨物列車なら空きがあると伝えたら、その二社は生産拠点を名古屋から大阪に移転して、その列車を利用することになった。それは『ビール列車』と呼ばれ、2つの違うビール会社のビールを1つの貨物列車で運んでいます」