『佐賀に暮らし困ったこと。』ローカルな“みんなの困り事”を紹介した本が話題
コロカルニュース
■佐賀に移住後、写真家とデザイナーの夫婦がつくった一冊 写真家の刑部信人さん(以下刑部さん)と妻の刑部あゆみさん(以下あゆみさん)がふたりの子どもたちを連れて東京から佐賀市へ移住したのは、2022年の3月のこと。 【写真で見る】1ページにひとりの「困ったこと」を掲載し、年代、性別、職業のみが添えられているシンプルな構成 コロナ禍を契機にこれからの暮らしについて真剣に考え、移住を決めたという刑部さん夫婦。 佐賀へ家族で移住後、どのような暮らしや活動をしてきたのでしょう。 佐賀で暮らし始めてすぐのこと。 刑部さんは妻の勧めでオンライン受講していた〈世界文庫アカデミー〉で、鳥取県の書店〈汽船空港〉のモリテツヤさんがつくった『WHOLE CRISIS CATALOGをつくる』というZINEに出合います。 「そのZINEは、“政治とは困っていることを解決することである”として、みんなの困っていること(CRISIS)をカタログにしようという試みで、政治的な内容が濃いんですがとても惹かれるものがありました」 当時、刑部さん家族は新生活が始まったばかり。「なんで佐賀ではこうなんだろう?」と、長年暮らした環境からの変化に戸惑う日々だったといいます。 「些細なことが一番困るなって思っていて。それまでと違う環境で、ネガティブとは思ってないけど、どうしても差を比べてしまう。でも決して東京の生活がよかったということではなくて、“なんで、こうなんだろうね?”っていう疑問形が僕らのなかで生まれていました」 佐賀での暮らしの「?」を積み重ねていくうちに、周囲の人に聞いてみたくなった刑部さん。徐々に知り合いが増えていくなかで、出会う人たちに「佐賀で暮らして困ったこと」を聞いて回りました。 そしてより佐賀を知るために、「困ったことを集めた本」をつくることにしたのです。 本を制作するにあたって、企画から「困ったこと」の情報収集、撮影とデザイン、そして編集とすべてをこなして、2023年2月3日、1年近くをかけて『佐賀に暮らし困ったこと。』は完成しました。 そして、佐賀に移住するタイミングで夫婦で設立した〈株式会社日當リ(ひあたり)〉から、『佐賀に暮らし困ったこと。』を出版します。 日當リという会社名は「クリエイティブという職業は、光が当たっていないところにちゃんとスポットライトを当てること」という考えで名付けたのだそう。「それと僕自身、日あたりのいい場所が気持ちよくて好きなんです」と刑部さんははにかみます。 「この本は僕らの名刺にしよう」出来上がった本を手に、ふたりは新たなスタートを切りました。 ■思わず共感してしまう?暮らしのなかの「困ったこと」 「こんにちは。写真家の刑部信人です。僕は2022年3月、東京から佐賀に家族で引越してきました。妻の地元の佐賀ですが、僕には馴染みのなかった場所。そんな佐賀のことを早く知りたい。佐賀の人たちと話をしたい。という思いから、出会った人たちに「困ったこと」を聞いて回りました。この本は、そんな皆さんの声を一冊にまとめたものです」(冒頭挨拶) 『佐賀に暮らし困ったこと。』は1ページにひとりの「困ったこと」を掲載し、年代、性別、職業のみが添えられているシンプルな構成です。97人の「困ったこと」を紹介しています。 パラパラとページをめくると、「お裾分けのみかん、玉ねぎが腐ってしまう(もらいすぎ?)」「個人の近況が近所に回るのが早すぎる」「旦那が自由」など個人的な困りごともあれば、「佐賀在住と胸を張って自慢できない」「若い人が佐賀から出ていくこと」といった切実なものまで。 なかには「人口減少(子どもがどんどん減っている)」「時給が安い」など社会全体に共通する困りごともあり、佐賀県民に限らず県外の方も興味を持って手に取るそう。 この本のユニークな点は、地域のいいこと紹介や観光ガイドマップといった“表面”の情報発信ではなく、誰かの心に燻っている火種や普段しまい込んでいる疑問を引き出して、フラットに共有していること。必ず1ページにひとり、読み手の向こう側にその人の暮らしが実在していることも、共感を生む理由なのではないでしょうか。 「僕自身、佐賀に来て1年やそこらでは人や地域のよさはわからないと思っていました。佐賀のいいところをまとめた本を作ったところで、良いことは自分の心の中でしみじみ噛み締めればいい。それよりもマイナスなところ、日が当たっていないところにフォーカスしたかったんです」