『佐賀に暮らし困ったこと。』ローカルな“みんなの困り事”を紹介した本が話題
出版後に佐賀県内の地域を回って座談会を開催
テーマとしてネガティヴな要素はあるものの、どこかクスッと笑えたり、ツッコミを入れたくなる雰囲気が、この本の持つ魅力のひとつなのだと感じます。 刑部さんは、『佐賀に暮らし困ったこと。』を制作するだけでなく、出版後に佐賀県内の地域を回って座談会を開催しています。 佐賀市の中心地にあるギャラリー兼ショップの〈PERHAPS〉の北島さんとは佐賀に移住後、すぐに意気投合。第1回目の座談会を一緒に企画し、PERHAPSのギャラリーには当日多くの参加者が集まりました。 「僕は、この本をつくるなら必ず座談会をしようと決めていました。困ったことや佐賀についての話を聞いていると、周りにいろんな人が集まってきて井戸端会議になるんです。みんな、話がしたいんだなって思います。(笑)」 これまで〈PERHAPS〉の開催を皮切りに、嬉野市の旅館大村屋、白石町の自家焙煎珈琲〈goen〉、有田町のセレクトショップ〈bowl〉、基山町の瀧光徳寺、多久市の〈SCOL CAFE〉などで座談会を行ってきた刑部さん。最近では座談会の認知が広がり、お店からのオファーも増えたそう。佐賀県の20市町をすべて回るのが目標ということで、各地での新たな出会いが楽しみだといいます。 刑部さんは、「僕は問題を解決する役割ではない」と言います。 「生活のなかの『困ったこと』は、大きく言えば現代社会の課題。ただし急いで明確に答えを出すのではなく、まずは身近な困りごとをみんなで話すことを大切にしています。風習だからと目を瞑っていたことも、考え方も、みんなで共有することで新たな視点で見ることができます。 『田舎にはなにもない』という声をよく聞きますが、“今あるものでできること”を探すことが大事なんだと思います。根本的に『何がしたいか』を考えられる力は、今を生きる上で必要なこと。自力で考えられることが面白いし、豊かなんじゃないかと思うんです」 “クリエイティブはコミュニケーションからしか生まれない”を信条とする刑部さん。座談会で得た体験は、自身の仕事にも大いに生かされるに違いありません。 最後に、今後についての話を伺いました。「今後は座談会を続けていくことと、『おやこ写真教室』をやりたいと考えています。必ず親子で来てもらって、一緒に地域を歩く。けっこうおもしろくなりそうだなって思っています。親が子どもの撮った写真に感動したり、子どもは“自由に撮っていいんだ”と思えたり。僕も子どもがいるから、子どもたちの未来に写真がつまらないものになってほしくないし、もっと写真は自由でいいと思っています。まちを歩いていろんな人と会って風景を見て、いろんな『すき』を見つけてほしいです」 人を巻き込んで輪を広げていくのが得意な刑部さん。佐賀に移住して間もないなかで多くの人と交流をし、新天地にすっかり溶け込んでいるようです。 「いつになるかわからないけど、10年後か20年後かに『佐賀に暮らし良かったこと。』を作れたらいいなと思っています」と笑う写真家の目に映るのは、まだ誰も気がついていないけれどキラキラと静かに輝く、“そこにもうあるもの”なのかもしれません。