「助かる命が助からない」日本のドラッグラグ、ドラッグロス問題に石川和男が警鐘
政策アナリストの石川和男が9月7日、自身がパーソナリティを務めるニッポン放送Podcast番組「石川和男のポリシーリテラシー」に出演。欧米などの海外ではすでに使われている治療薬が、日本では未開発あるいは未承認のため使えない「ドラッグロス」と治験や審査などの遅れから使えるまで時間のかかる「ドラッグラグ」について専門家と議論した。
欧米などの海外ではすでに使われている治療薬が、日本では未開発で開発予定もなく利用できない状態「ドラッグロス」と、海外で承認された新薬が日本国内の治験や審査の都合で使えるまでに時間のかかる「ドラッグラグ」。 厚生労働省によると、2023年3月時点で欧米では承認されているが日本では承認されていない医薬品(未承認薬)は143品目。そのうち、国内開発未着手の医薬品は86品目で6割に達する。 日本でこれらの問題が発生する要因について、番組にゲスト出演した新時代戦略研究所理事長の梅田一郎氏は、日本特有の薬価制度や新たに開発される薬の種類の変化などを挙げた。 梅田氏によると、医療保険で使える医薬品の価格「薬価」は国による定期的な見直しのなかで市場の実勢価格に合わせて改定され、多くの場合は改定のたびに引き下げられるという。日本では約30年に渡る長期経済低迷で税収減が続き、国の財政も悪化するなか歳出削減や患者の負担軽減を理由に薬価は引き下げられてきた。良い薬を作っても「発売当初の想定よりも評価された(より売れた)薬の価格が何度も切り下げられる」(梅田氏)という現象につながり、製薬会社にとっては投資効果が得られにくい市場構造になっていったと指摘した。 また、現行の薬価制度では改定で価格が引き上げられることはないルールになっており、昨今の人件費や輸入原材料費の値上がりに対応できない背景についても言及した。 加えて、製薬業界における“主役”が変わりつつあることも、日本のドラッグラグ・ドラッグロスを加速させているという。近年、高血圧や高脂血症など多くの人が罹る病気に対する治療薬が普及し、ある程度行き渡ったことで大規模な開発や治験、製造体制を構築するためのコストを背負える大企業の製薬会社から、市場規模が小さく売り上げ見込みが低い希少疾病や小児、難病などを対象とする医薬品の開発を行うベンチャー企業に市場の主役が移りつつあると指摘。そういった企業では、より投資回収の確実性が出資者から求められるため、日本への新薬投入を控える傾向が強まるという。 ほかに治験や承認に対するスピードも改善されているとはしながらも、より一層の見直しが必要だと訴えた。 石川は「日本の製薬産業は、新しいものを開発しても伸ばそうというインセンティブが働かない構造になっている。経済成長とともに薬価の決め方も抜本的に見直し、メリハリのある評価を下す必要がある。そうしないと良い薬が出てきずらくなり、助かる命が助けられないという確率が高くなる」と警鐘を鳴らした。