青木崇高が演じる役がどれも圧倒的に “リアル”な理由。「スパイのように石原さとみさんを観察して…」
現代社会に対して思うこと「聖人君子にはなれないけれど…」
――青木さんが「豊の気持ちを想像することは自分の思い上がりではないか」と話されていたのが強く印象に残ったのですが、そうした“嘘のなさ”にいまのお話は通じますね。わかったような気にならないといいますか。 この物語は、ドキュメンタリーを観ているような感覚になると思います。同じような経験を持つ方はきっとこの映画を観られないでしょうし、宣伝に伴う予告などを目にするのもつらいかもしれません。「あくまで一つの仕事だから」とそんなレベルで向き合ってしまうのはとても恐ろしいことです。まだまだ僕自身答えが出せていませんし、絶対にわかったふりはできないけれど――豊という人物と彼が生きる世界をちゃんと心に落とし込んで“生きる”ことで、少しでも向き合いたいとは考えていました。 これはどんなエンターテインメントや表現においてもそうで、役者というのはそもそもが想像力を使う職業です。ただ哀しいかな、『ミッシング』で描かれるような事件は実際にこの世の中にあり、当事者の方がいらっしゃいます。僕ができることはせめて、自分の全部で作品にしっかりと向き合うこと、そしてその先に少しでもこの社会が良い方向に向かう推進力を生み出せるように努力することに尽きるかと思います。 僕は、同じような経験をされた方に「観てください」とは言えません。しかし、多くの方に観ていただくことでこの作品が社会全体に広がり、もう少し他者に優しく思いやりを持てるようになってくれたら……と願っています。いまを生きる一個人として「この社会は他者に冷たくなっているんじゃないか」と感じますから。情報化社会になって様々な情報が手に入る反面、「相手の立場に立って考える」や「思いやりを持つ」からは遠ざかっている感覚があります。これは自分も含めてですが――もう少し他人に関心があってもいいのかな、とは思います。そういった意味でも、自分への戒めになるような作品でした。もちろんみんなが聖人君子のように生きられないことは理解していますし、僕も偉そうなことを言える立場ではありませんが、一緒に優しさを持てたらもう少し良い方向に向かえるとは思います。 ――いま青木さんがおっしゃった“社会の温度”は、多くの方が感じていらっしゃることだと思います。 きっとそうですよね。ただ、そうは思っていても実際行動することは難しいものだと思います。目の前に困っている人がいたら多くの方が「助けなきゃ」と思う反面、「ここで動いたら偽善者ぶっていると思われるかな」といった周囲からの目線に怯えてしまっている節があるのではないでしょうか。それはもしかしたらSNS等の周りからの評価が、直感的に想う事柄に対してブレーキをかけているところもあるのかもしれません。「なんとかしたい、でも誰かからやいやい言われるんじゃないか」という恐怖が、個々人の行動を鈍らせてしまっているのではないかと思っています。 青木崇高(あおき・むねたか) 1980年生まれ、大阪府出身。主な出演作に連続テレビ小説「ちりとてちん」、大河ドラマ「鎌倉殿の13人」、映画『るろうに剣心』シリーズ、『ゴジラ-1.0』や、韓国の大ヒット映画シリーズの最新作『犯罪都市 NO WAY OUT』など。Huluオリジナルドラマ「十角館の殺人」が配信中。日仏共同製作映画『蛇の道』、カンヌ国際映画祭選出作品『化け猫あんずちゃん』の公開が控えている。
SYO