【相撲編集部が選ぶ九州場所5日目の一番】豊昇龍、捨て身の投げで白星継続。大の里が熱海富士退け全勝は3人に
細かい動きにはやはり豊昇龍、鋭いものがあるといえる
豊昇龍(小手投げ)若隆景 危なかった。今場所初めて後手を引いた。若隆景に深く左を差されて攻め込まれた。だが、最後に白星を手にしたのは、大関だった。 豊昇龍が逆転の小手投げで若隆景を投げ飛ばし、初日からの連勝を5に伸ばした。 若隆景との対戦は、令和5年の1月場所以来、ほぼ2年ぶり。前回はもちろん若隆景が右ヒザをケガする前の話で、そのときは2人とも関脇だった。ただ、そんな古いデータではあるが、直近の対戦3番は若隆景が勝利。豊昇龍にとって、勝ちやすいタイプの相手でないことは確かだ。しかも若隆景はここまで3勝1敗と今場所好調。持ち前の低い体勢での攻めが戻ってきていた。 【相撲編集部が選ぶ九州場所5日目の一番】長すぎる駆け引きに場内騒然。立ち遅れを意地ではね返した豊昇龍が5連勝 今場所、前に攻める立ち合いで成功している豊昇龍は、この日も突き上げていく立ち合いを狙った。だが若隆景はそれ以上に低く当たって、上体を起こすことを許さず。豊昇龍はたまらず、ここで引き。若隆景はそれにつけ込んでサッと左を差し、深いところで下手を取って、一気に前に出る。 しかし、後手に回っても豊昇龍にはこれがあった。右からの捨て身の投げだ。相手が出てくるところで右から小手に巻いて腰に乗せ、軽量の若隆景を投げ捨てた。 あと少しで勝ちを逃した若隆景とすれば、惜しむらくは少し足の送りが遅れたことと、攻めが左からだけになってしまったというところだが、よく見ると、豊昇龍は投げを打つ前に、左手で若隆景の手首をつかんで持ち上げ、相手の右からの攻めを封じている。意識しての動きかどうかは分からないが、この辺の細かい動きにはやはり豊昇龍、鋭いものがあるといえる。 この日は前に攻める「ニュー豊昇龍」ではなく、先場所までの姿に戻ったような取り口ではあったが、それでも白星をつかんで連勝を継続したことは、豊昇龍にとって大関となってからは初めての優勝への大きな前進だ。 「(若隆景は)やっぱり低くて速い。相変わらずだった。うまいし、低いし、速いし。慌てずに、落ち着いていたのでよかったと思う」と豊昇龍。通算500回出場を白星で飾り、口も滑らかだ。 聞けば、「久びさの対戦に、ワクワクしていた」という。若隆景が十両復帰を決めたとき、「早く(元の地位に)来ないとな」と声をかけると「待ってろ」と返されたことがあるそうで、「その日が来たね。(若隆景が)復活してきて、うれしい」と、勝負とは別に、好敵手への気持ちも垣間見せた。 この日は琴櫻が宇良を圧倒した後、大の里も立ち合いに取られた上手をうまく切って熱海富士を押し出し、相手の全勝にストップを掛けた。きのう、「5日目の結果次第で、混戦場所の扉が開く可能性も」と書いたが、大関陣が踏ん張り、ひとまずそれは阻止した形となった。 ただ、まだ安心はできない。あすはこの日と対戦相手が入れ替わり、豊昇龍が熱海富士、大の里が若隆景の挑戦を受ける。豊昇龍にとって熱海富士は、直近の対戦で3連敗している苦手であり、大の里にとって若隆景は、先場所、初日からの連勝を12日目に止められた相手だ。さらに琴櫻は、今場所勢いのある阿炎との対戦。それぞれがここを乗り切ることができれば、場所の展開は少し落ち着き、「3大関の争いに、隆の勝(この日は30歳の誕生日を勝利で飾った)、阿武剋がどこまでついてくるか」という感じの場所になっていく気がするが……。大関が番付の権威を示すか、はたまた波乱の場所が演出されるか、あすもまた、楽しみな戦いが続く。 文=藤本泰祐
相撲編集部