作者・魚豊が語る『チ。』に込めた思いとは? “知性と暴力”への興味から地動説をテーマに
■異端審問官、ノヴァクのイメージとは? ――見開きでいえば、神童ラファウに謎の学者フベルトが地動説を提言するシーンはまさにリッチな使い方ですよね。 では、漫画とアニメの見せ方の違いで感じたことはありますか? 漫画はめくりのリズムが支配しているコンテンツなので、それはアニメや映像表現にはないなと。逆にアニメはずっと流れ続けているもので、そこに音楽や効果音、役者さんの演技が付いてくるのは大きな違いとして挙げられますよね。動きの中で見せるとか、キャラたちの掛け合いで徐々に緊張感があるとか、そういうものはアニメならではの表現だと思うので、 そこは(テレビアニメ『チ。』でも)出ていたら最高だなと思います。 ――アニメならではの違いとして、『チ。』を声で彩るキャストの方々もとっても豪華です。キャラクターたちの声を聞いたときの印象はいかがでしたか? まず一流というか、100レベルの人に集まっていただけたことが、めちゃくちゃありがたいなと思っています。 初回を含めて2回アフレコを見学させてもらったんですけど、もうみんなプロなんで、1発でほぼ正解を出してるというか。そこはやはりプロフェッショナリズムを感じましたね。 ――ちなみに、漫画を描かれている時って、各キャラクターの声のイメージはありましたか? あんまりなかったです。でもラファウは女性声優の方が演じる少年の声みたいなイメージで描いていました。生意気な感じといいますか。ノヴァクは漠然と野原ひろし、みたいなイメージがありました。 ――異端審査官のノヴァクは一見するといわゆる“悪役”に見える存在ですが、実際は先ほどの話にもあったシステムに準じている、仕事人間ですよね。野原ひろしがイメージと聞いて意外でもあり、不思議と「分かる…」とも思えました。 それはうれしいですね。この作品を通してずっと出続けているし、さまざまな時代に翻弄(ほんろう)され続ける立ち位置ですが、ノヴァクは家族のために頑張って仕事をしているだけなんです。今回津田(健次郎)さんが演じてくださったのですが、もともと『チ。』のファンでいてくれて。いやもう本当に完璧っていうか、むしろノヴァクは「津田さんしかないな!」と納得させられました。 ほかのキャストの皆さんもそうですけど、完璧を目指そうとしてしっかりはまっているんです。速水(奨)さんが演じるフベルトも演じているというよりは、「こいつってこういう声だよね」という感じで…やっぱりプロの方の技術ってすごいっす。 ――声優陣と同じく、音楽も『チ。』を彩る要素の一つです。何でも音楽は『チェンソーマン』や『ブギーポップは笑わない』などを手掛けられている牛尾憲輔さんがよいとオーダーされたとか? 最初のアニメ化の依頼の時に、音楽を牛尾さんにしてほしいとオーダーさせていただいて、あとは特に本格的なお願いはありませんでした。それが今回、本当に運良く通って、受けていただけたのはもうめっちゃうれしいです! 元々、牛尾さんの音楽が超好きっていうのと、とてもコンセプチュアルに作曲される方なので、こういうのを自分の作品でやっていただけたらもうこれ以上ない喜びだなと思っていました。あともう1つ、先ほどの漫画とアニメの表現の違いの話にもつながるのですが、音楽の有無は大きいと思うんです。音がすごく格好よければ作品もさらに格好よくなります。 ――作品を彩る音楽も今から楽しみです! 最後にテレビアニメ『チ。』の放送を楽しみにしている方々に向けて、作品に込めた思いを聞かせてください。 『チ。』は“好奇心”と“向上心”を肯定したいという思いで描いた作品です。描き終わって2年、22歳で描き始めた時からでいえばもう5年も経っていて。今なお大事な気持ちだなと思うので、それに込めた思いをぜひ感じていただけたらと思います。