パリ五輪で最後… 近代五種「馬術」から「SASUKE」へ変更の背景 日本代表選手「けじめをつけて帰ってきます」有終の美誓う
開催国が用意した馬で競技
同じく馬と共に行う五輪競技の「馬術」(障害、馬場、総合各馬術、計3種目)では、こうしたことは起こらないのか。 「日本馬術連盟」の担当者によると、馬との競技、また日頃のトレーニング等においては、「国際馬術連盟(FEI)」が定める「馬スポーツ憲章」が尊重されているという。 馬のウェルフェア(幸福、健康)を目的とする同憲章。競技の際に「馬に対して過剰な負担となる騎乗あるいは器具(むちや拍車など)による過剰な扶助は認められていない」ことなどが詳しく定められている。 しかし、馬へのウェルフェアの考え方は近代五種の馬術においても同様だ。清水氏も「耳や目、皮膚、動き、しぐさなどを読み取り、馬とコミュニケーションを取ることが大事です。たとえ馬が(競技に)失敗したとしても最後は首などをポンポンとスキンシップ(愛撫)し、必ずねぎらわなければいけません」と強調する。 一方、単独競技の馬術と、近代五種の馬術では、決定的な違いがある。それは、馬術が練習を共にしてきた自馬を持ち込んで行うのに対し、近代五種では開催国が用意した貸与馬を用いて行うこと。 「どの馬を抽選で引いても一様に障害を飛ぶ能力をもっている必要があり、(能力は)平準化されています」(清水氏)とはいえ、わずか20分間で“初対面”の馬の性格などを見定め、人馬一体のパフォーマンスを行うことは至難の業だ。 「馬との信頼関係を20分間でつくらないといけない。また、1回目にアクシデントがあったとしても2回目に出る選手はその同じ馬に乗らなければならない。不公平的なルールの特性もあります」(清水氏)
馬術から「SASUKE」へ
清水氏によると、近代五種はアトランタ五輪(1996年)のころから五輪の廃止競技の対象になっていたという。その理由が、まさに馬術だった。 馬術が“問題視”されてきた背景には、前述したルールの不公平性のほかに、世界各国で120センチの障害を飛べる競技馬がそろえられなくなっていることも挙げられる。 東京五輪組織委員会にも出向し、競技担当課長として馬の調達にも携わった清水氏も、「馬をそろえるのに苦労しました」と振り返る。 「(世界で)近代五種で使える馬が減少し、競技を行える国も限られてきています。それはIOCが掲げるスポーツのグローバリズムにも反しています」(清水氏) 東南アジアやアフリカ各国など馬をそろえられない国は、五輪へのエントリーはおろか競技に取り組むことすらできない。そうした中でドイツ人選手・コーチによる虐待騒動が表面化。これが“引き金”になって馬術廃止の流れへ一気に傾いた。 そして、近代五種の馬術に代わる種目として、世界160の国と地域で放送されている日本の民放番組「SASUKE」を基につくられた障害走「オブスタクル」が浮上した。 五輪では、直線の60~70メートルのコースに8個の障害(モンキーバー=うんてい=など)を設けたコースが検討されている。障害を通過し走り切ったタイムを得点化するとされ、「これまでは馬が障害を越えていましたが、オブスタクルは人間が障害を越えます」(清水氏)という。 国際近代五種連合(UIPM)は、2025年1月1日付で各大会の全てのカテゴリーでオブスタクルを採用することに決めている。五輪で近代五種の馬術が見られるのはパリ五輪が最後になる。