「脱下請け」目指し軽量車いす生産 浜松のメーカー、パリ・パラ金選手も使用
パリ・パラリンピックの車いすテニスで金メダルを獲得した小田凱人、田中愛美両選手の競技用車いすを製造したメーカーが浜松市にある。金属加工が主力事業だが、リーマン・ショックを機に「脱下請け」を図るため、新たな事業として車いす製造を始めた。研究で培った軽量化の技術をスポーツだけでなく、介護の負担軽減につなげることを目指している。(共同通信=清水千景) 1968年創業の橋本エンジニアリングは従業員約70人。数多くの輸送用機器メーカーが拠点を置く浜松市周辺で、下請けとして金型や試作部品の製造を担ってきた。 だが、2008年9月のリーマン・ショックで売り上げが4分の1になり、リストラせざるを得なかった。「下請けだけでは社員を守れない。30年後も生き残る会社にしなければ」。橋本裕司社長(57)は高齢化で車いすの需要が高まると見込み、2009年から開発を始めた。 浜松周辺の11社と連携できたことで実用金属の中で最も軽く、高強度なマグネシウムの加工や溶接技術を習得。車体の製造に活用し、2017年に従来のアルミニウム製の半分に当たる重さ6キロ台の車いすを商品化できた。
少しずつ注目を集め始め、2017年秋には素材に目をつけた田中選手が競技用の製造を依頼。橋本社長は「予想外だったが、世界で戦える車いすができれば技術を示すチャンスになる」と快諾した。軽さに加え、激しく動いても丈夫な強度を確保するため、ミリ単位の調整に苦労したが、3年かけて競技用車いすが完成。同社のオファーを通じ、小田選手も使うようになった。 車いすも含め、売り上げに占める自社製品の割合は6~7%だが、新素材の研究や海外展開を通じ、2027年までに10%に引き上げることを目指す。 電動車いすの販売も計画中だ。約30キロある従来品の半分ほどの重さで、障害物や段差を感知できるセンサーを装着するなど、高齢者も安心して使えるのが特徴。25年10月ごろの販売を目指す。 橋本社長は「老老介護や福祉施設での負担を減らせれば」と意気込む。