『シビル・ウォー』実写外国映画久々の1位 その快挙について考察する
10月第1週の動員ランキングは、アレックス・ガーランド監督が近未来の内戦状態にあるアメリカを描いた『シビル・ウォー アメリカ最後の日』がオープニング3日間で動員12万7000人、興収1億9800万円をあげて初登場1位となった。実写外国映画がトップに立つのは『マッドマックス フュリオサ』以来約4ヶ月ぶり。そのうちシリーズ作品以外でトップに立つのは『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』以来約10ヶ月ぶり。さらに、原作ものではないオリジナル作品でトップに立つのは『TENET テネット』以来、実に約4年ぶりと言えば、これがいかに快挙であるかがわかるだろう。 【写真】10月第1週の動員ランキング 2023年10月から正式に独占パートナーシップ契約を結び、日本国内でA24作品の配給を手がけているハピネットファントム・スタジオ(製作や配給におけるA24への関与は作品ごとに異なるので、日本で公開されるすべてのA24作品を配給しているわけではない)だが、日本でA24作品が動員ランキング1位を記録するのも今回の『シビル・ウォー アメリカ最後の日』が初めて。今年ハピネットファントム・スタジオが配給を手がけたA24作品としては、他にアリ・アスター監督の『ボーはおそれている』、セリーヌ・ソン監督の『パスト ライブス/再会』、ジョナサン・グレイザー監督の『関心領域』があるが、北米で大苦戦した『ボーはおそれている』をスマッシュヒットに導き、映画技法的にかなり前衛的な『関心領域』もロングヒットを記録するなど、配給会社としてその手腕を奮っている。 近年A24作品の存在感はハリウッドのメジャー作品にも比肩するものとなっているわけだが、そうであるからこそ、日本に支社があるメジャー配給会社の作品ではないことによる日本公開までのタイムラグについても一方で指摘しておく必要があるだろう。『ボーはおそれている』は約10ヶ月、『パスト ライブス/再会』も約10ヶ月、『関心領域』は約5ヶ月、そして『シビル・ウォー アメリカ最後の日』は約6ヶ月と、全米公開からかなり間隔が開いての日本公開となった。その背景には、国内外の膨大な数の作品が、限られたスクリーンを奪い合っている日本の映画興行の問題がある。 もっとも、全米公開からただ時間の経過に任せるのではなく、監督のプロモーション来日を実現させて、各メディアでの露出を増やすなど、宣伝面におけるハピネットファントム・スタジオの大きな貢献についても触れておかないとフェアではないだろう。監督やキャストの来日プロモーションは、2011年の東日本大震災を境に極端に減って、やがて韓国の映画マーケットの成熟や、中国の映画マーケットの急拡大もあって、東アジア地域に限定しても、もはや日本はかつてのような「作品プロモーションの要所」ではなくなってしまった。また、一部のハリウッドのメジャー作品においてわずかに現在もおこなわれている来日プロモーションも、その多くはテレビでの露出に焦点を合わせた公開直前のもので、雑誌やウェブで取材をする機会もタイミングもほとんど考慮されてないものだったりする。 そんな現在の外国映画を取り巻く国内の状況をふまえると、ハピネットファントム・スタジオが『ボーはおそれている』や『シビル・ウォー アメリカ最後の日』でおこなってきた宣伝戦略や細かい工夫が成功してきたことの重要さがわかる。日本国内における外国映画のシェアがこのままシュリンクしていったとしても(それ自体はもう止められないものだと自分は考えている)、世界の映画マーケットで日本が一定の存在感を保持していく上で、そこには大きなヒントがあるように思う。 ©2023 Miller Avenue Rights LLC; IPR.VC Fund II KY. All Rights Reserved. IMAX® is a registered trademark of IMAX Corporation.
宇野維正