周防正行監督「冤罪はこんなに簡単に起きてしまうのか」 裁判官に固定概念植え付ける「99.9%」という数字
裁判をやり直す「再審」に関する刑事訴訟法の規定(再審法)改正を考えるシンポジウム「再審法改正 まったなし!」が2日、大津市の大津市民会館で開かれた。再審問題に詳しい映画監督や県内の冤罪(えんざい)当事者らが、冤罪の実態や審理の長期化など現行制度の問題点について市民に訴えた。 【写真】無実を訴えながら服役中にくなった父の無念を語る遺族 「再審法改正をめざす市民の会」の共同代表で、映画監督の周防正行さんが基調講演した。痴漢の冤罪事件をテーマに刑事裁判を描いた映画「それでもボクはやってない」の製作を振り返り、「『疑わしきは被告人の利益に』という刑事司法の鉄則は守られているのか、冤罪というのはこんなに簡単に起きてしまうのかと思った」と強調した。 刑事裁判の問題点として、否認すれば身柄拘束が長引く「人質司法」や、検察官が自らに有利な情報しか開示しない「証拠開示」の不十分さを挙げた。「再審事件で証拠開示が進めば、通常の裁判でもいかに証拠が隠されているかが分かるのではないか」と指摘。再審法改正の必要性に触れ、「裁判官は世論が高まれば新しい判断を下せる。僕たちがリードしていかないといけない」と呼びかけた。 冤罪の当事者や遺族も参加した。1984年に発生し、現在も再審請求審が続く日野町事件で、服役中に亡くなった阪原弘さんの長男弘次さん(63)が登壇。「父が亡くなった時に再審を諦めようとも思ったが、事件は今も終わっていない。なんとか父の名誉を回復したい」と話し、最高裁の判断を待ち続ける苦悩を明かした。 湖東記念病院(東近江市)の患者死亡を巡り再審無罪が確定した西山美香さん(45)は取り調べで「本当に怖い思いをした」と語り、「みなさんに冤罪の真実を分かってほしい。再審や法改正に関心を持ってもらいたい」と訴えた。 専門家によるパネル討論では、冤罪が起こる背景や再審法の課題を議論した。湖東記念病院事件弁護団の井戸謙一弁護士は「99・9%といわれる刑事裁判の高い有罪率が、裁判官に固定概念を生んでいるのではないか」と述べた。 現在の再審法では、捜査機関からの証拠開示の規定がないことや、再審開始決定に対する検察官の抗告(不服申し立て)が早期の冤罪救済を阻んでいるとされる。日野町事件弁護団の小原卓雄弁護士は「再審法には期日を指定する規定がないため、裁判所が長く放置し、判断を示すまでに何年もかかるケースがある」と別の問題点も提起した。 滋賀弁護士会が主催し、市民ら約100人が参加した。10月以降、静岡地裁で再審無罪が確定した袴田巌さんに続き、福井県で女子中学生が殺害された事件でも殺人罪で服役した前川彰司さんの再審開始が決定している。再審に対する社会的な関心の高まりを受けて企画した。