ロシア兵に偽装する北朝鮮兵士の姿が…!「特殊部隊1万2000人」のウクライナ参戦が事実なら、「朝鮮半島情勢」は一気に緊迫する!
どこまでも確証と言えないまでも
国情院が18日に公開した報道資料を筆者が分析した内容は以上だ。しかし、ここまで読んでもらえばわかると思うが、「北朝鮮特殊部隊約1万2000人がウクライナに派兵」という話はどこにも出てこない。 実は、この話は報道資料には掲載されておらず、聯合ニュースは「情報消息筋」の話として伝えている。おそらく、報道資料を配布した後、国情院の幹部がバックグラウンドブリーフィング(背景説明)で話したものだろう。改めてその内容を見てみよう。 「北朝鮮が最精鋭特殊作戦部隊である第11軍団、いわゆる暴風軍団所属の4個旅団、計1万2000人規模の兵力をウクライナ戦争に派兵すると予測される」 報道資料の「確認」「把握」と比べ、「予測」とトーンダウンしていることがわかる。これはインテリジェンス独特の言葉使いで、国や組織によって表現は若干異なるが、各種センサーでの探知状況などで事実と判断される順に、確認、把握、予測となる。つまり、国情院は1万2000人規模の特殊部隊が派兵されることを事実と判断するまでの確証は持っていないと考えられるのだ。 今は「特殊部隊1万2000規模の派兵」について多くを語るときではないが、北朝鮮の特殊部隊も各国と同じでやや複雑だ。 北朝鮮軍で特殊部隊を統括するのは、陸海空軍と戦略軍に続き5つ目の軍種として2017年に創設された「特殊作戦軍」である。報道された第11軍団とは、特殊作戦軍隷下の陸軍の特殊部隊で、韓国に浸透して要人暗殺や後方撹乱などを任務とする。 第11軍団は練度は高く、装備も優秀と指摘されるものの、約110万人といわれる陸上兵力の相当数が建設や農作業に従事しているのが、北朝鮮の実情だ。その中で相対的に練度が高いというだけで、米陸軍のグリンベレーや陸自の特殊作戦群のように高度な能力は備えておらず、実際には各国の歩兵と同程度のレベルとみられる。
偽装兵の決定的証拠、ロシア軍から軍服受領の映像
これまで伝えてきた、国情院が公開した北朝鮮のウクライナ戦争への参戦について、その内容があまりに衝撃的すぎたからか、日本では一部の有識者までもが、「国情院の情報だから信用できない」旨をSNSで発信していた。 私はこれを片腹痛いと横目で見ていたが、このような意見が出てくる背景には、上述した情報の読み解き方のほかに、軍事情報活動がどのような形で行われているのか、その実態を知らないということがある。 例えば、前編で触れた北朝鮮特殊部隊を輸送したロシア海軍揚陸艦の動きは、不鮮明な合成開口レーダーの画像以外に、米軍の偵察衛星が航行レーダなどを掴んだELINT(電子情報)、無線を傍受したCOMINT(通信情報)など表に出せないデータが隠されている。 そして、同じく前編で触れたミサイル3人組と言われる金正植氏のウクライナ視察や上述した北朝鮮特殊部隊がロシア軍に偽装しているような情報は、その多くがHUMIT(人的情報)の成果であり、韓国が独自で掴んだものもあれば、ウクライナから提供されたCOLLINT(交換情報)もある。 これを裏付けるように、ウクライナ政府が偽情報対策で設立した戦略コミュニケーション・情報セキュリティセンター(SPRAVDI)は19日、ロシア沿海州地方にあるセルギエフスキー訓練所で北朝鮮将兵がロシア軍から軍服を受領する映像を公開した。 この映像から「そこ越えるな」「こっち来い」など朝鮮語が聞こえる。そして、北朝鮮将兵は全体的に痩身小柄で、一般にイメージする特殊部隊像からはほど遠い。この姿からも、北朝鮮特殊部隊が過大に評価されてきたことが思い出される。 果たして、北朝鮮はウクライナ戦争にどこまで、どのような形で加担していくのか。そして、ロシアと北朝鮮の軍事同盟とその成り行きが日本と国際社会にどのような影響を与えるのか。 北朝鮮が参戦し、戦闘行為が確認されれば、参戦国である北朝鮮への軍事的圧力は最大限に高められる。その結果、南北間の緊張が物理的な衝突に発展する可能性は否定できず、間隙を突いた中国が何らかの動きをとるおそれもある。北朝鮮のウクライナ戦争への参戦は、日本の喉元に匕首を突きつけたに等しい状況を生み出した。これからもしっかりとウォッチして、お伝えしていきたい。 【詳しくはこちら】『北朝鮮軍『ウクライナ派兵』は朝鮮半島有事まで想定か…!韓国『偵察衛星画像』が読み解いた『露朝軍事同盟』の思惑と準備』
吉永 ケンジ(ジャーナリスト/セキュリティコンサルタント)