寺地拳四朗が振り返る、ボートレーサーになりたくて始めたボクシングで世界王者になるまで
――プロデビューしたのは関西大学卒業後の2014年でしたが、当時の練習量はどうだったんですか? KT:練習はちゃんとやっていましたよ。ただ、ボクシングが好きだったわけではなく、ボートレーサーになるための"仕事"としてやってました。 ――そんな経緯で始めたボクシングで、2017年には世界王者に。初めて世界タイトルを獲った時はどうでしたか? KT:自分でも世界王者になれると思っていたので、「やったー」という感じ(笑)。ただ、そこで「今後もボクシングでやっていこう」という気持ちにはなりました。世界王者にまでなって、「ボートレースはもういいかな」と。その時点ではボクシングが好きというより、「自分に向いているからこのままやろうかな」という感覚でしたね。 【ボクシングに見出した「楽しさ」】 ――やはり寺地選手は異色の世界王者ですね(笑)。ボクシングが楽しいと感じるようになったのはいつ頃でしょうか? KT:世界チャンピオンになって、防衛しているうちに徐々に楽しさがわかってきました。特に、三迫ジムにお世話になるようになって、加藤(トレーナーの加藤健太氏)さんと一緒に練習するようになってから、知識がどんどん増えていったんです。技術的なことや身体の使い方とか、新しいことが見つけられるのが楽しいですね。それまでもたぶんできていたんですけど、理解せずにやっていました。それらを理解することで、より動きがよくなったと思います。 ――加藤トレーナーと一緒に戦略を考え、実践するんですか? KT:だいたい加藤さんが考えてくれていますけど、それを自分も理解できるようになってきたという感じです。まだまだボクシングには自分が知らんことがいっぱいあるんでしょうね。だから今では、そういうのを見つけるのが楽しいし、できるようになっていくのも楽しい。昔よりボクシングが好きになりましたね。
――以前は、「加藤さんにまるで操られているかのように、指示どおりに動いている」と話していました。今はいかがですか? KT:変わりませんけど、「自分でも考えられるようになったほうがいいな」とは思います。指示されたことは実践できますが、それはセコンドに戻らなければわからない。試合中の変化を自分で感じられるようにならないといけないと思っています。「もうちょっと、自分でやらにゃいかん」と思う部分です。 ――加藤トレーナーに対して、全幅の信頼を置いているのが感じられます。 KT:言うとおりにやっていれば勝てると信じています。加藤さんが言っていることは正しいし、的確やし、知識もすごい。そこはかなり信頼しています。 【父・永さんとの関係は?】 ――過去にはアメリカでもトレーニングをしてきましたが、アメリカ修行のいい部分はどういったところでしょう? KT:アメリカの"強さ"を体験できます。海外の強い選手は、日本人の強さとはまた違うんです。日本人はぴょんぴょん飛んでハイペースでパンチを出すイメージ。それに対して、海外の選手はズシッとしていて、ズドンとパンチを打ってくる。無闇にぴょんぴょん飛ばないからブレへんし、身体が浮きにくい。そういったスタイルを体験しようと思ったら、向こうに行くしかないんですよ。 ――面白い表現ですね。確かにアメリカの選手はアウトボクサーであっても、特に最近は、それほど軽やかなフットワークは使わないイメージです。どっしりとしたスタイルが多いですね。 KT:日本にもファイターはいっぱいいますけど、また種類が違うし、アメリカのボクサーはディフェンスもうまい。ただ、日本人には日本人の強さがあるので、どちらが強いかと言われたらそれはわかりません。 ――それぞれよさがあり、違う部分を感じられるのが大きいということですね。 KT:そのとおりです。マニー・パッキャオのスタイルは日本人の系列ですけど、それで勝ち続けていました。ただ、パッキャオは負けも多かったし、弱点もあるのでしょう。ひとつ言えることは、日本人のスタイルだとスタミナが大事になるということ。僕も同じですが、スタミナがなかったら勝てないボクシングなんだと思います。