池上季実子、女優としての絶頂期に経験した大事故。馬車から空中に投げ出され…石畳に全身を強打「ずっと後遺症に苦しめられて」
海外ロケで命を落としかねない大事故
1987年5月、池上さんはテレビの旅番組の撮影で訪れたカナダで、撮影最終日に乗車した観光馬車の馬が暴走し、車に衝突する事故に遭遇してしまう。 「旅番組のリポーターでカナダに行ったのですが、石畳の道路を走る観光用の馬車に乗ることになって。でも、それが屋根のない荷車のような木製の華奢(きゃしゃ)な馬車だったから、うちのマネジャーが『危ないから、この馬車には乗せないでください』って言ったら監督も了承したんです。 それで安心してマネジャーがスケジュール調整のために国際電話をかけにホテルに一旦戻ったら、監督が『俺が責任を持つから馬車に乗って』って言って。 女優にとって監督は逆らえない存在なので、もう一人のリポーターの女優さんとカメラマンと馬車に乗ったら、それまでおとなしかった馬がいきなり立ち上がり、ものすごいスピードで暴走して車に激突して…。私の記憶は一旦そこで途切れてしまって、次に気がついたときには空中に投げ出されていました」 石畳に右側から叩きつけられた池上さんのからだは一旦跳ね上がり、今度は左側を下にして落下、さらにもう一度バウンドして左側から落ちたという。全身を強打したが、搬送された病院での診断は“異常なし”。全身に激痛が走り、歩くこともままならなかったが、帰国してすぐにドラマの撮影に入ることに。 「1週間くらいは、からだを動かすのも大変でしたが、撮影に穴をあけるわけにはいかないので、移動のときにはスタッフに抱き上げてもらったりしてやっていました。結局カナダロケの番組はお蔵入り。企画した制作会社はドロンしちゃって、事故のことはテレビ局にも報告されなかったので補償は一切なし。その後、ずっと苦しめられている後遺症の治療費も全部自前です」 帰国して1週間くらいで痛みがひいたことで安心した池上さんは、病院に行きそびれ、撮影と子育てに追われる日々を送ることに。事故の翌年に離婚。シングルマザーとなり、公私ともにさらに多忙になった池上さんに事故の後遺症が表われる。 池上さんは、1988年に公開された映画『華の乱』(深作欣二監督)に出演し、第7回日本アカデミー賞優秀助演女優賞を受賞した。この映画は、大正時代、愛に芸術に社会運動に情熱を燃やした人々の姿を描いたもの。主人公は吉永小百合さん演じる与謝野晶子。池上さんは、晶子がひそかに思いを寄せる作家・有島武郎(松田優作)と心中する美人雑誌記者・波多野秋子を演じた。 「『華の乱』の撮影中のある朝、目が覚めたら首がまったく動かなくなっていて、ガチガチに固まった感じだったんです。病院で精密検査を受けたら『首の骨が一対一対全部ずれて固まって神経を圧迫している。交通事故とか相当な外力が加わらなかったら、こんなことにはならない』と言われたので、カナダの事故が原因だとわかりました」 ――撮影はそのまま続けられたのですか? 「先生には即入院して、最低でも4カ月間、首にギプスをして安静にしているようにと言われて、目の前が真っ暗になりました。撮影の真っ最中なので入院するわけにもいかず、(スタッフから)専門の治療院を紹介していただいて、2日間で何とか首が少し動かせるようになって撮影に復帰しました」