細谷真大（2024年撮影）

　パリ五輪（オリンピック）アジア最終予選を兼ねるU－23アジア杯カタール大会で、FW細谷真大（22＝柏レイソル）が値千金の勝ち越し点を決めた。「負けたら終わり」の大一番。柏のアカデミー出身で、トップ昇格した直後は、紅白戦にも入れない苦しい時間を過ごしたが、人一倍の負けん気と努力を重ね、柏、U－23代表のエースへと飛躍した。 　細谷と柏で3年間プレーした元DFの染谷悠太氏（37＝現柏コーチ）は、練習で「DFにとって嫌な動き」をアドバイスするなど細谷の成長を支えた1人。染谷コーチに、細谷との秘話を聞いた。【岩田千代巳】 　　　　◇　　　◇　　　◇ 　染谷コーチが、今も鮮明に覚えている光景がある。細谷がトップ昇格した2020年2月の鹿児島・指宿キャンプ。当時、柏のセンターバックだった染谷コーチは、紅白戦で細谷とマッチアップした。 　流れたボールの奪い合いの場面で、染谷コーチは本気モードで細谷に体を当てて、ボールを奪取。細谷は吹っ飛ばされて転がった。一瞬「あっ…」と悔しそうな表情を浮かべるも、その後も臆することなく果敢に向かってきた。 　染谷コーチ　自分もまだ負けないぞ、という気持ちでやって。真大は吹っ飛ばされた後も、闘志を前面に出してボールを奪いに来たんです。この気持ちの強さが新鮮で。僕は彼の負けん気に、骨があるな、と感銘を受けました。 　プロ1年目は前線にFWオルンガ、クリスティアーノら強力な助っ人がおり、細谷は紅白戦にも入れないこともあった。リーグ戦出場も2試合でわずか22分。それでも染谷コーチは、腐ることなくシュート練習、筋トレに励む細谷を見てきた。 　柏ユースで鍛えられ、技術の高さは折り紙付き。その上で強い負けん気と愚直に練習に取り組む姿勢に、大きく伸びる予感を抱いていた。 　細谷がプロ2年目を迎えた春。染谷氏は練習で「選手」と「選手」の立場ながら、細谷にディフェンダーとして「FWにどういう動きをされたら嫌か」と、練習でアドバイスをするようになった。細谷の伸びしろに期待してのことだ。 　染谷コーチ　直線的に動けるのは真大の良さだけど、僕もいろんな選手と対戦して、斜めや背中に向かってくる動きとか、ちょっと一手間を入れてくる選手が嫌だった。そういうのが必要じゃない？　と。力業という感じだったので、もうちょっと工夫してみれば、とか。頑張ってる選手に、俺だったらこういう動きは嫌だよ、というのは、いくらでも言えますからね。 　以降、細谷は井原正巳コーチ（現監督）ら指導スタッフから動き出しの指導を受け、得点の引き出しを増やしていった。2年目の21年に3得点。22年に8得点を決め、パリ五輪世代のエースへと成長。細谷自身も「動き出しはプロに入って身につけてきた部分。ユースの時はスピードとドリブルが一番の強みだったけど、プロの世界に入って、それがなかなか通じなくて、もう1つ武器がほしいな、と取り組んできた」と振り返っている。 　染谷コーチは、細谷の飛躍に「成功体験を得るために、やれることはすべてやっていた。そりゃ、そうなりますよ」とうなずき「スピードもあって、体幹がしっかりしていて。最後の方は、一瞬のスピードで抜かれてました」と懐かしそうに振り返った。 　今季から、トップチームのコーチに就任し、細谷とは「コーチ」と「選手」の関係になった。1月はA代表に選出されてアジア杯のメンバー入り。1試合しか出場機会がなかったが、柏に戻るや「コンディション調整も含めて練習したい」と自ら志願し、染谷コーチが自主練習に付き合った。 　今季、柏では開幕から7戦連続で先発し、無得点。そのままU－23アジア杯へ向かったが、染谷コーチは「チームのためにやっていれば、絶対に、個人に返ってくると思う。彼は今、いいところまで来ていると思うので、1つ取れたらケチャドバになると思いますよ」と予言していた。 　大一番で出た一発。負けん気が強い細谷は、プロ1年目と同様、闘志をみなぎらせて、準決勝、決勝でも得点を重ねそうだ。