「キメる所をキメろ!」 素人には欠点がわからない“悪魔と少女”の漫画がプロの添削で劇的変化
SNSを通じて多くのクリエイターが漫画を発表し、そこから商業メディアで連載化するヒット作も生まれている昨今。読者にダイレクトに訴求し、人気作家になるクリエイターが増えている一方で、「独学」ゆえに自身が抱えている問題に気づけず、悩みを抱えたまま疲弊してしまっているクリエイターも少なくない状況だ。 【画像】素人には欠点がわからない“悪魔と少女”の漫画がプロの添削で劇的変化! そんななか、参考になるのがプロとして活躍する漫画家やイラストレーターがその技術や心構えを伝える動画だ。YouTubeで人気を博しているのが、元週刊少年漫画誌の連載作家・ペガサスハイド氏のチャンネル。初心者が悩みがちなポイントを解説する動画もためになるが、視聴者から募った作品を添削する企画が人気で、いつも相談者の個性に寄り添いながら、「さすがプロ」と唸らされる目から鱗のアドバイスを送っている。作画に関する解像度が上がり見る目が鍛えられるため、読む専門の“漫画好き”にもおすすめしたい内容だ。 先日、記念すべき100回目を数えたハイド氏の添削動画。101回目のタイトルは「漫画家志望者は自分の漫画の良さを知るべき! まだまだ魅力を増強できるッ! 」で、実力があってもそれを十分に発揮できていない漫画家予備軍に伝わってほしい内容だ。 今回添削することになった作品は、ハイド氏の動画をいつも楽しみにしているというクリエイターによるファンタジー漫画だ。身体のあちこちが壊れてしまっている人形のような少女・リィナに、「目玉を一緒に探してあげるよ!」と声をかける悪魔の少女・ネム。ネムは「ただし 魂と引き換えにね…」とおどかすが、リィナはキラキラとした無垢な笑顔でそれを受け入れる……という1シーンが描かれている。 一見して非常に美しい作画で、純粋で愛らしいリィナと、露悪的だが本当は優しそうなネムの距離感も魅力的。ハイド氏も「今回の漫画は、いいところがめっちゃあるんです!」と語り、キャラクターが愛らしいだけでなく細かい演出が目を引くとして、ネムのユニークで可愛らしい飛び方や、ヤンチャな性格を想像させる服の着崩し方、リィナの衣装やヘアスタイルへのこだわりなど、細部までよく描けていることを高く評価していた。背景の片隅に物語とは関係のないリスがさりげなく描かれているのも、作者が想像を広げながら作品と向き合っていることが伝わってくる。漫画の神様・手塚治虫の作品にもよく見られる遊び心だという。最後の小さな一コマでは、悪魔らしく脅しをかけたネムが、リィナの純粋さに肩透かしを食らい、思わずほっこりしてしまっている状況もうまく表現されている。 ハイド氏の解説とともにあらためて作品を見返してみると、何となくの第一印象よりグッと解像度が上がり、丁寧に作られた良作だと思わされる。素人目には欠点の見つからない1ページだが、プロが添削すると一体どうなるのか。 ハイド氏はいつものように元作品をベースにネームを引き直していく。今回は普段のように「初級編」「中級編」と段階を踏んでアドバイスを送るのではなく、いきなり「上級編」からスタート。そのアドバイスは、「キメる所をキメろ」というものだった。ハイド氏が最初に評価したように、本作はよくできている。キャラクターも可愛く、漫画として読みやすく、細部の遊び心もいい。しかし、実際に雑誌に掲載されているプロの原稿と比較すると、どこか稚拙に見えてしまうと、ハイド氏は指摘する。その理由が、「キメる所でキメられていない」からだという。 具体的にどんな点が改善可能なのか。例えば「リィナ」は非常に愛らしいキャラクターだが、元の作品はどこか淡々としていて、その魅力が十全に伝わっていないようだ。ハイド氏は、このキャラクターのルックスの愛らしさ、内面の純粋さ、さらに目玉を失っているという謎めいた部分まで、「その魅力を一発でキメたい(伝えたい)」として、コマを貫いて全身を大きく描く構成に変更。比較してみると確かに、一気に漫画としての洗練された印象になり、作品の世界に読者を引き込むエンタテインメント性が上がったように思える。これがプロとアマチュアを分ける「キメる所でキメる」というポイントということだ。 ハイド氏は続けて、「キャラクターの要素はとてもいいのに、それがバシッと伝わるような描き方ができていないのがもったいない」と語り、そのために編集者や読者から見過ごされてしまっているクリエイターが少なくないと指摘。ハイド氏が引き直したネームでは、悪魔の少女・ネムの表情もより大きく強調され、やや起伏に欠けていた1ページが見違えるようになった。詳しくはぜひ動画を視聴していただきたい。 画力が高くキャラクターやストーリーもよくできていると言われるのに、「漫画家デビューに至らない」というクリエイターは少なくないはずで、今回ハイド氏が指摘した問題はその原因の一つだと思われる。言語化が難しいステップアップのポイントを細やかに指摘するハイド氏の添削動画は、今後も多くのクリエイターを育てていきそうだ。
向原康太