いまだに制圧できない新型コロナ…なぜ人類はウイルスに苦しみ続けなくてはならないのか
細菌由来の感染症は何百万円にわたって人類を苦しめてきた。 しかし、18世紀の英国人医師ジェンナーによる「種痘」が天然痘の予防法として発明され、この種痘法をほかの病気にも応用しようとした19世紀のフランスの細菌学者パスツールがワクチンの製法を確立した。これらは人類にとって、感染症に対する「魔法の弾丸」だった。 【画像】ウイルスはこうして「変異」している! しかし、その後も人類はウイルス感染に苦しみ続ける。 【※本記事は、宮坂昌之・定岡知彦『ウイルスはそこにいる』(4月18日発売)から抜粋・編集したものです。】
変幻自在なウイルスたち
「魔法の弾丸」を手にした人類だったが、ウイルスには抗生物質が効かない。 ただし最近になって、一部のウイルスには良い抗ウイルス薬が開発され、帯状疱疹やC型肝炎などで良い治療効果を示しているが、いわゆる風邪を引き起こす多くのウイルスに対してはあまりよく効くものがない。 おまけに、風邪のウイルスはけっこう厄介な存在だ。特に、感染やワクチンによる免疫が長期間持続しない、一定の病原性を持つ風邪ウイルスにはわれわれはいやというほど苦しめられてきた。 第一次大戦中の1918年、スペイン風邪が世界中に広がり、数千万人から1億人もが亡くなった。第一次大戦のときの死者数は1600万人程度と推定されることから、スペイン風邪による死者のほうが戦争による死者よりもはるかに多かったのである。 この感染症は、もともとはアメリカで始まったインフルエンザが米軍兵士のヨーロッパ参戦によってヨーロッパ全体に広がったものだった。ところが、戦時中の情報統制のためにこの事実は明らかにされず、中立国だったスペインでの感染状況がたまたま報道された。このために、スペイン風邪という、スペインにとっては迷惑な名前が残ってしまった。 それから約100年後の2019年には新型コロナウイルスが瞬く間に世界中に広がり、わずか3年足らずで少なくとも700万人の死者を出した。世界中の製薬会社や研究者が、最新の遺伝子工学の技術を駆使してMRNA(メッセンジャーRNA)ワクチンや抗体医薬をいち早く投入したが、いまもって制圧できていない。 このようなたぐいのウイルスが悩ましいのは、頻繁に変異を重ねてからだの免疫反応を回避するだけでなく、新たに開発されたワクチンや抗ウイルス薬に対しても次第に抵抗性を獲得していくことである。科学者たちはこのようなウイルスの変幻自在さにいまも悩まされている。 * 私たちのからだは一見きれいに見えても実はウイルスまみれだった! 宮坂昌之・定岡知彦『ウイルスはそこにいる』(4月18日発売)は、免疫学者とウイルス学者がタッグを組んで生命科学最大のフロンティアを一望します!
宮坂 昌之/定岡 知彦