中日・細川の打球吸い込まれる…「狙うなら右翼ポール際」阪神園芸の生き字引がPL・立浪に教えた“甲子園の女神”
◇渋谷真コラム「龍の背に乗って」 ◇26日 阪神1―1中日(甲子園)=延長12回 細川が52日ぶりの9号ソロを右翼ポール際に打ち込んだ時、スコアボード上部の旗を見た。風向きと強さを確かめるためだ。いつものように右から左。微風といったところか。それでも右方向への打球には逆風となり、押し戻されたはずだ。 ◆お立ち台ではちょっと”不器用な笑顔”?な細川【写真】 この3年、中日の選手が右翼ポール際に本塁打を打った日には書くと決めていた。1987年夏の甲子園。阪神園芸の名物グラウンドキーパーだった辻啓之介さんに、こう尋ねた球児がいる。 「すいません。僕は左打者なんですけど、この球場でどこに打てばホームランになるんですか?」 旗を見て、強い浜風を知り、不利を悟った。でも、この人なら何かのヒントが聞ける。そう思ったのなら、ものすごい嗅覚だ。甲子園の土と芝と風を知り尽くしていた辻さんはこの物おじしない球児をすぐに気に入り、こう教えた。 「打てるんなら、ポール際を狙ってみろ。あの辺だけは浜風に邪魔されずに打球が伸びていくから」 さすがの生き字引も本当に打つとは思わなかっただろう。しかし、1回に放った先制2ランはまさに指をさした右翼ポール際に吸い込まれていった。辻さんにお礼のウインクをしたというその球児はキャプテンを務めており、見事に全国制覇。深紅の大優勝旗を握っていた。 おわかりと思うが、立浪監督のエピソードである。辻さんとの交流はプロ入り後も続き、現役ラスト甲子園にはすでに退任していた辻さんが駆けつけ、ねぎらいの言葉をかけていた。 37年がたち、球場の改修や周辺の建築物の影響で風向きや強さは変わってきていると聞く。それでも、右翼ポール際への飛球はスーッとスタンドに吸い込まれる。甲子園には魔物もいれば、女神もいる。攻めきれないのはお互いさま。だけど、あれがなければ負けていた。細川の打球には女神がほんの少しほほ笑んでくれたのかもしれない。
中日スポーツ