海外は子宮頸がん撲滅が進む中、メリットがこれだけあるのに伸びないHPVワクチン接種率
年間1万1000人の女性が診断され、約3000人が亡くなり、患者数・死亡数ともに増え続けているといわれる「子宮頸がん」。しかし、HPVワクチンと検診(細胞診、HPV検査)を組み合わせることで予防可能ながんでもある。 【表】こんなに違う!? 日本と海外のHPVワクチン接種率 HPVワクチンの公的な予防接種は世界の約120ヵ国以上で行われ、カナダ、イギリス、オーストラリアなどの接種率は8割以上といわれている。対して日本のHPVワクチン接種率は2021年時点でG7中ワーストレベル(※1)、子宮頸がんの検診受診率は40%台(※2)、HPVに起因する子宮頸がんの発生率もG7の中でワースト1位(※3)という残念な状況が続いている。ところが、昨年秋に「日本において、20代女性でのみ子宮頸がん罹患が2011年以降有意に減少している」というニュースが届いた。昭和大学などの研究グループが、日本で初めてHPVワクチンによる子宮頸がんの予防効果を昨年秋に論文発表した(※4)。 この朗報から改めて、HPVワクチンの有効性や子宮頸がん予防のあり方について、産婦人科医であり研究の代表者を務める昭和大学医学部産婦人科学講座 教授の松本光司さんに話を伺った。前編では、HPVワクチンによる子宮頸がん減少の調査結果をデータとともにお伝えした。後編では、他国の事例とともに、接種率がまだまだ低い日本の課題について引き続き伺う。
アメリカでも20代の感染が大幅に減少
前編で解説したように、日本でもHPVワクチンによる子宮頸がん罹患の減少がみられるが、海外ではもっとダイナミックな変化を起こしている国がいくつも存在する。参考までに、アメリカの例を紹介したい。 アメリカでは2006年から定期HPV ワクチン接種プログラムが開始されていて、現在は11~12歳を対象としている。 「7年間の追跡調査の結果 、2023年の米国のがん統計報告では、20代前半の女性の子宮頸がん罹患率が65%減少したことが示されました(ワクチン接種を受けた思春期女性/男性の集団は調査時には20代になっている)。別のレポートでも2008年から2016年にかけて20~24歳の米国女性におけるHPV16/18陽性の子宮頸部前がん病変の発生率が大幅に減少したと報告されており、これらは我々の調査結果と非常によく似ています」 松本さんは「HPVワクチン接種の効果を正しく評価するにはさらに精度の高いデータを集める必要がある」としながらも、「国内で初めてHPVワクチンによる子宮頸がんの予防効果が報告できたことは大きい。HPVワクチン接種率の促進と子宮頸がん予防推進につながることを期待しています」と胸を張った。 ---------- 子宮頸がんの分類について:子宮頸がんの発生過程は、がんの前がん病変である「異形成」、子宮頸部の表面だけにがんがある上皮内がん、そして周囲の組織に入り込む浸潤がんに分類される ----------