地域経済のけん引役「中堅企業」、潜在力引き出す新政策の全容
「大手と一括り」→「従業員2000人以下」定義
日本の「中堅企業」政策が2024年に始動する。中堅の定義を明確にし、成長投資やM&A(合併・買収)による規模拡大を促す中堅向けの新制度を相次ぎ創設する。中堅は地方での国内投資や雇用創出を継続し、日本経済に大きく貢献してきた。中堅を重点支援し、成長力を一段と引き出すことで、日本全体の産業競争力向上につなげる。(下氏香菜子) 【一覧表】中堅企業向け政策の4つの柱 「人も資金もトヨタ自動車のような大企業と比べて劣るのに、我々も同じ“大企業”として扱われる。政府の支援が充実している中小と比べ、不利な立場にあると感じる」。ある自動車部品メーカー首脳は苦笑いする。 経済産業省は23年11月、大企業と中小企業の間に位置する中堅を従業員2000人以下の企業と定義する方針を決めた。一部の上場企業を含む全国約9800事業者が対象になる。従業員数が2000人を超えると生産性が大きく高まる企業の傾向を踏まえ、大企業と中堅を線引きする基準を決めた。中堅の定義を明確にし中堅向けの政策を抜本的に強化する。24年の通常国会に産業競争力強化法改正案の提出を目指す。 日本の中堅政策は海外勢と比べ手薄だった。中小が中小企業基本法に基づき、資本金や従業員数で明確に定義されている一方、中堅はどのような規模や特徴を持つ企業を指すのか曖昧な状況が続いていたからだ。 結果として中堅はトヨタやソニーグループ、NTTなど、いわゆる時価総額上位の「巨大企業」と比べ経営資源が見劣りするにもかかわらず、同じ大企業という看板を背負って経営のかじ取りをしなければならなかった。中小と比べ政府の補助金や税制優遇などの支援制度が弱く、全国の自治体や地域金融機関も地域の中小支援に軸足を置く。 中堅の多くは地方に本社や工場を構え、地域経済を牽引(けんいん)する重要な存在だ。経産省の調査では過去10年間における国内での設備投資額の伸びは大企業が7・3%増の7000億円であるのに対し、中堅は37・5%増の1兆5000億円と大幅に上回った。 国内投資を通じて主力事業の拡大に成功するなどし、大企業に引けを取らない給与水準で地域の雇用を支えている企業が多く存在するのも見逃せない。ただ、大企業と中堅では1社当たりの売上高や純利益率に開きがあるほか、中堅から大企業へ成長した企業の割合も欧米と比べ低い。 政策の弱さがありながらも、独自に成長を遂げ地域経済を支えてきた中堅。中堅を重点支援し潜在成長力を引き出すことは、政府が目指す地方を含めた持続的な賃上げの実現に直結し、日本経済全体の底上げにつながる。 経産省で中小政策と共に地域産業政策を担う須藤治中小企業庁長官兼地域経済産業グループ長は「中堅は世界をリードする企業に成長する可能性を持つ。大企業や中小だけでなく、中堅の重要性に目を向けた政策を打ち出すことは非常に意義深い」と強調する。 「24年は『中堅企業元年』とし、政府一丸となって中堅向けの政策体系を構築する」(岸田文雄首相)。政府が中堅の成長力を引き出すために実行する目玉政策の一つが、中堅による大規模な国内投資を対象にした補助金制度の創設だ。従業員2000人以下の中堅のうち、賃金水準や成長投資の状況など一定の要件を満たした企業に対し、10億円以上の新工場建設や設備投資費の3分の1を補助する。 さらに地域経済の活性化に資する事業計画を支援する地域未来投資促進税制に「中堅枠」を新設。成長意欲の高い中堅と認められた場合、同事業計画における設備投資額の最大6%(大企業などほかは最大5%)を法人税から控除する。国内事業の拡大や省力化による生産性向上など成長に前向きな中堅が大規模な国内投資を進めやすい環境を整備する。 中堅の規模拡大も後押しする。中小がM&Aする際、買収額の最大70%を損金算入できる税制について、M&Aの実施回数ごとに損金算入できる割合を増やし、最大100%とするとともに、新たに中堅も優遇を受けられるようにした。中堅による中小の買収を促し、経営力を高めてもらうとともに、産業の新陳代謝を加速する効果を期待する。