世界も注目『怪獣8号』は「低音音響アニメ」、1話につき200時間…音楽家・坂東祐大がこだわり抜いた理由
意識したのは「なかなか地上波では流せない音」
──音楽的にはロックもあれば、ベース・ミュージックなどの鋭角的なダンス・ミュージック、現代音楽的な展開もみせるクラシックの要素も混在していて、かなりハイブリッドなものになってますが。 そうですね。アニメじゃないとなかなかここまで幅の広いことはできなかった気はしますね。毎回ここまで力を入れれるかと言われたらちょっと不安です(笑)。 ──坂東さんのソロ作品としてこのアルバムが出てきたら、聴き手は仰天しますよね(笑)。 『怪獣8号』だからやってみたというか、遊ばせてもらった作品ですね。 ──サウンド面で今回初めてやってみたことなどはありましたか? そういう点では、世間的に僕はシンセとかまったく使わないイメージだったらしいんですけど、実はすごく好きで。今回のアルバムでは、プログラミングなどもほぼ自分でやっていますね。 ──おー、シンセ類も坂東さんご自身がこなされていたとは意外でした。 なんか『大豆田とわ子と三人の元夫』の時にアコースティックな感じは頑張り切った感があったので、今回はやったことがないことをやってみたい、というのがあって。そこで『怪獣8号』の話をいただいたので、いろいろ振り切れたことができるなというのはありました。 ──純粋に音楽作品として聴くと、例えが少し古いですけどエイフェックス・ツインがオーケストラなども取り入れた時期の音源や、かつて芸能山城組が手がけた『AKIRA』のサントラに通じる印象を受けたりしましたが、今作を作るうえで参照にした音楽作品などはありましたか? これはいろんなところで言ってるんですけど、映画『ブラックパンサー』の音楽は通常のルドウィグ・ゴランソンが手がけているフィルムスコアのパートと、ケンドリック・ラマーたちが制作したコンセプチュアル・アルバムの2種類があって、その間をシームレスに行き来するんですよね。構造的な部分では、ああいうのを週間アニメでやりたかった。 サウンド面で言うと、ベタかもしれないけどトレント・レズナーとアッティカス・ロスが映画音楽でやっている、ロックの人がやっているアンビエントミュージックにビートがあるのかみたいな曲はかなり勉強しましたし、ジョニー・グリーンウッドがすごく攻めたギターとかを入れているような、ロックの人がやっている映像作品の音楽みたいなものはすごく好きです。曲調というよりは、トーンや音色かもしれないですけど。 ──なるほど。トレント・レズナーやジョニー・グリーンウッドに通じるトーンというのは、よくわかります。ロックと言っても、全体的にオルタナ的な尖った音が特徴的ですし。 それをジャンプ作品でやったら面白いだろうなと思いました。エキセントリックなギターとか普段はそんなに使えないけど、「怪獣だから攻めれる!」みたいな。なので、岡田拓郎さんとかにすごく変なギターばかり演奏してもらって(笑)。クリームの泡立て器を使って演奏してもらったりもしたし、なかなか普通は地上波では流せない音を意識的に入れようとしていました。 ──確かに。アニメのサントラ盤とかではなかったら収録を見送られそうな、かなりアヴァンギャルドな曲も紛れ込んでいますよね(笑)。 だから、サントラの皮を被った結構アヴァンギャルドな作品なんですよね(笑)。でも、それがやりたかったことですね。