2024年夏、ウクライナ軍は、何のためにロシア西部クルスク州へ越境侵攻したのか。ウクライナ首都キーウの政権幹部から折々に発せられる声明は、「西側パートナー」に宛てた弁明のように聞こえてならない。 【写真】ドローン攻撃で破壊されたモスクワ州ラメンスコエの集合住宅

ロシアと西側、両方を試す

ウクライナ軍の侵攻によって破壊されたとされるロシア・クルスク州スジャの街＝2024年8月6日、［スミルノフ州知事代行提供］（AFP時事）

　急襲の隠れた意図が、ロシアを試すと同時に、アメリカと西側を試すことだったことは今や明らかだ。ウクライナ軍は、西側兵器を使ってロシア本土を攻撃した。ロシアのプーチン大統領が主張する「レッドライン」をあざ笑うかのように、やすやすと越えてみせた。 　9月10日には、モスクワ州が大規模なドローン攻撃に見舞われた。州内の高層住宅が炎上、損壊し、シェレメチェヴォを含む首都モスクワの4空港が一時閉鎖された。 　ウクライナは、ロシアによる「核の脅し」が恐れるに足りない「はったり」であることをアメリカと西側に示しつつ、供与された兵器の使用制限を解除させたい意図を隠さない。ウクライナのゼレンスキー大統領はアメリカと西側首脳に、ロシア領内への長距離ミサイルによる攻撃を認めるよう求めている。

現実味乏しい「出口」シナリオ

G7サミットで円卓を囲んで話し合う各国首脳ら＝2024年6月13日、イタリア・プーリア州（AFP時事）

　今のところ、アメリカのバイデン大統領は、回答をあえて留保しているように見える。思い起されるのは、6月に南イタリアのプーリア州で開催された先進7カ国首脳会議（G7サミット）だ。 　いわく、「力による領土の侵害を許さない」「プーチンのロシアに勝たせてはならない」「ウクライナを支援する我々の団結は揺るぎない」などなど。丸テーブルを囲んだ首脳たちは口々に勇ましく語り、必要とされる限り、長期的に支援していくことをゼレンスキー大統領の前で約束した。 　アメリカと西側の問題は、戦争のこれ以上のエスカレーションを望まないと、誰もが判で押したように言いながら、ウクライナが勝つこと以外に、この戦争を終えるための「出口」を持たないことだ。実際にロシアによる侵攻から2年半の間、ウクライナ側の粘り腰に押し切られる形で、先端的な戦車や戦闘機、長距離ミサイルなどを次々に供与してきた。