「レッドライン」越えたウクライナ ロシア「核の脅し」は杞憂なのか◇エコノミスト 西谷公明
真の狙いはロシアの原発か
果たして、「核の脅し」は杞憂(きゆう)にすぎないのか? プーチン大統領に「核を使う勇気」などそもそもないのか? そのことが分かるまでロシアを試してしまってからでは手遅れになるというのが、この問題の「リアルな本質」にほかならない。 ところで、越境侵攻の真の狙いが、ロシア最大級のクルスク原子力発電所の占拠にあったとしたらどうだろう。クルスク原発を「人質」に取り、クレムリンの喉元に匕首(あいくち)を突き付けて、ウクライナの土俵へロシアを停戦交渉に引きずり込もうとしたのなら…。 真相は定かではない。ロシア政府は、事態の急を国際原子力機関(IAEA)に通報した。8月26日には、IAEAのグロッシ事務局長が調査団を率いてクルスク原発を視察した。ロシア側はウクライナ軍から原発を守るように長い塹壕(ざんごう)を掘った。 かたやロシアは、ウクライナ中部のザポリージャ原発を支配下に置いている。核の脅威は現に存在する。その限りで、「新冷戦」とも呼べるこの戦争は「凍結」するしかないと思う。