入山法子、『虎に翼』で戦後日本の“叫び”を体現 「原爆裁判」で担う転換点としての役割
入山法子が『エール』『らんまん』で作った“小さな転換点”
『虎に翼』はヒロインの「人生」を描くうえでこぼれ落ちてしまいそうになる周囲の人々の「人生」を掬い、そして物語の舞台に引き上げる。彼ら彼女らにスポットを当てる。そこで“入山法子=吉田ミキ”は何を語り、本作の何を物語るのだろう。このタイミングでのこの役どころを務める入山は、大変な重責を負っているのではないだろうか。 そんな入山は、『エール』(2020年度前期)でも『らんまん』(2023年度前期)でも、同じ朝ドラのフィールドで重要な役割を担っていた。前者で演じていたのは主人公の幼なじみと特別な関係にある女性で、後者で演じていたのはヒロインとたまたま出会い、影響を与える役どころであった。いずれも出番は多くはなかったものの、作品の小さな転換点を彼女が作り出していたのは間違いない。 しかし『虎に翼』で演じるのは、純粋な“人間ドラマ”の登場人物のひとりではない。吉田ミキのような存在が、たしかにあの時代には存在していた。日本に原爆が投下されてから79年が経った現代を生きる私たちは、この実感が薄らいできつつあると思う。 本作において“入山法子=吉田ミキ”が語るのは、史実の一部なのだろう。そして“彼女ら”が本作をとおして物語るのは、やはりこの実感が薄らいできつつある私たちに対する警鐘のようなもの、あるいは叫びのようなものなのではないだろうか。 俳優であれば誰もが朝ドラへの出演を願っているのだろうが、役によっては背負うものが大きい。吉田ミキはまさにそうだ。これに入山法子はどのようにして命を与えるのか。私たち視聴者も生半可な覚悟ではいけない。寅子とともに、彼女の「人生」に向き合わなければならないだろう。
折田侑駿