「悩みがあるなら何でも話して」は怖すぎる…社員がどんどん辞めていく職場で行われていたダメな1on1の中身
■1on1をしても離職率が増える ここ数年、離職防止やモチベーション向上のために、1on1を導入する会社が増えています。 1on1とは、部下の本音や悩みなどの把握を目的として、比較的フランクな雰囲気の中で部下の自発的な発言を尊重しながら、上司と部下の双方向のコミュニケーションを行うものです。 私も1on1の導入に関する相談を受けることがありますが、その中でこんな事例がありました。 その会社は離職者が多いという悩みを抱え、その解決のために社長自ら1on1を実施していました。ところが離職者は減るどころか、むしろ増えている気配すらあるとのこと。 ■社長にはとてもじゃないけど言いたいことなんて言えない そこで私がコンサルタントとして関わり、まず部下の方にヒアリングを行いました。その結果、こういう意見が多く聞かれました。 「社長が『悩みとか不満があるなら話して』と言うものの、社長はトップダウンでものを言う人なので、とてもじゃないけど言いたいことなんて言えないです」 「社長に不満なんか言うと『お前はわかってない!』って説教されそうで怖いです」 「1on1は部下の話を聞くための機会だって人事から聞いてたんですけど、結局、社長の昔話を聞かされて終わりでした。『ありがとうございます。勉強になりました』と言うと、社長はご満悦でした」 つまり、1on1をしたつもりが、まったく1on1になっていなかったのです。 この事例からもわかるように、普段から話を聞く姿勢がない人は、相手から「この人は自分の気持ちをわかろうとしてくれない」という印象を持たれます。 その状態で「悩みや不満があれば話してほしい」と言ったところで、相手は悩みや不満があったとしても「あ、大丈夫です」と言って話してはくれないのです。
■3つのアクションで離職率を40%から0%に ここで、共感して話を聞くことで離職者を大幅に減らすことができた、経営心理士講座の受講生のお話をしたいと思います。 その方はWEB制作会社で働かれており、業務の依頼が多く、制作部の社員は毎日深夜まで働く状況でした。そのため、毎年制作部の4割ほどの社員が辞めていました。 ただ、会社としては今が事業拡大のチャンスだから、ここで業務の依頼を断るつもりはないとのこと。そんな中で彼は、離職者を減らすため、次の3つのアクションを起こしました。 a:いつでも部下が質問できる環境を作り、こちらからも声をかける b:質問があった際はウェルカムな姿勢を示す c:話を聞く際には共感を意識する 毎日最後まで職場に残り、部下に「わからないことがあったら、遠慮しないでいつでも聞いて」と伝え、質問されたらどれだけ忙しくても部下の質問に対してウェルカムな姿勢で応じることを徹底しました。そこはプライドを持ってやったと話されます。 そして相談があった場合は気持ちに寄り添い、共感を意識して話を聞きました。 このことを2年間徹底した結果、部下は悩みや不満を打ち明けてくれるようになり、その内容に対応することで、ついに離職者はゼロになりました。 「忙しいから離職者が多いのは仕方ない」と話される方もいます。たしかに、忙しい職場は離職率が高くなりやすいのは事実です。 しかし、上司が話を聞くことを徹底し、部下の悩みに対応することで、このように離職率を下げることはできるのです。 ---------- 藤田 耕司(ふじた・こうじ) 経営心理士、公認会計士 1978年徳島県生まれ。早稲田大学商学部卒業。2004年、有限責任監査法人トーマツに入社。2011年に同社を退社。2012年、藤田公認会計士税理士事務所(現FSG税理士事務所)を創設。2013年、経営と心理と会計のコンサルティングを行うFSGマネジメント株式会社を設立、代表取締役に就任。2015年、一般社団法人日本経営心理士協会を設立し、代表理事に就任。著書に『リーダーのための経営心理学』(日本経済新聞出版社)、『経営参謀としての士業戦略』(日本能率協会マネジメントセンター)がある。 ----------
経営心理士、公認会計士 藤田 耕司