「ソブリンAI」の夜明け 各国の「主権型AI」の開発状況を見る 長谷佳明
一方で国の枠を超え、AI開発の国際協力を勧めているのが東南アジアだ。24年3月、シンガポールを拠点とする企業や研究機関らなどからなるAIシンガポールとグーグルリサーチは、「Project SEALD (Southeast Asian Languages in One Network Data)」を始めた。タイ語、タミル語、ビルマ語など、この地域特有の言語に特化したAIのためのデータセット(AIのための学習データ)の整備を目指す。データセットが整えば、オープンソースの大規模言語モデルをファインチューニングし、その地域のニーズに沿った独自AIを開発できる。 ■オープンソースモデルの利用もありうる ソブリンAIは国が主導して作るとはいえ、大規模な計算リソースや開発に必要な人員を確保するのは容易ではない。ただ昨今は、メタ・テクノロジーズが開発するLlama3をはじめ、フランスのミストラルAIのMixtral、アラブ首長国連邦のテクノロジーイノベーション研究所のFalcon 2など無償で利用できるオープンソースのモデルもある。ゼロからAIを開発しなくとも、商用AIに匹敵するオープンソースのモデルを入手できる環境が整ってきたため、ソブリンAIも、これらのモデルをベースに、地域の共同開発プロジェクトとして進むケースもあるだろう。 ソブリンAIと相対することになるオープンAIやグーグルらは、一国のAI開発費をはるかにしのぐ金額を投じている。このため、ソブリンAIが商用サービスに匹敵する性能を獲得するためには、思いを同じくする国同士が役割を分担し、互いに知恵を出し合い協力することが肝要であろう。 (長谷佳明氏・野村総合研究所エキスパートストラテジスト)