「ソブリンAI」の夜明け 各国の「主権型AI」の開発状況を見る 長谷佳明
■海外製AIに頼ることに警鐘 オーストラリアは、同国最大の公的研究機関であるオーストラリア連邦科学産業研究機構が24年3月、ソブリンAIを巡る取り組みに関連して「Artificial Intelligence foundation models」というリポートにまとめた。このリポートは、海外製AIに依存する状況に警鐘を鳴らし、国内でのAI開発体制の整備と、自国の法律や規範、文化に適合したAIの重要性を訴えている。 すでに政府がソブリンAIのための予算を計上して具体的な行動を進めているのがカナダだ。カナダにはモントリオール大学ヨシュア・ベンジオ教授をはじめとする著名なAI研究者が多い。2024年度の予算で24億カナダ・ドル(約2760億円)のAI関連予算が成立。このうち20億カナダ・ドル(約2300億円)は、自国の研究者や企業のためのAI開発環境の整備などを含む「AIコンピュート・アクセス・ファンド」の設立と「カナダ・ソブリン・コンピュート戦略」に使う。 カナダのトルドー首相はこの投資について、「最先端のコンピューティングインフラへのアクセスを確保し、より多くのグローバルなAI投資をカナダに引き付け、最高の人材を育成・採用し、カナダ企業が世界の舞台で競争し、成功するのに役立つ」と主張している。AI人材が豊富に見えるカナダも、ソブリンAIの実現は急を要し、現状に危機感を抱いていると判断しているようだ。 ■国家が主導するソブリンAIにはリスクも 欧米に対し、独自のAI生態系を構築してきたのが中国である。中国サイバースペース管理局は24年5月、習近平国家主席の著書や政府文書などを学習した大規模言語モデルの開発を発表した。権威主義的な国では当然起こると思われていた動きだが、自由主義国家においても、特定の思想を強く反映したモデルがソブリンAIとして作られることのリスクは拭い去れない。国が主導して大規模言語モデルを開発する際の懸念の一つといえるだろう。