坂本真綾、『黒執事』の16年を経たいま声優業に思うこと 「最後に残るのは人の内面」
「今の私にはこういう演技も楽しめるようになったんだな」
ーー改めて、今回の「寄宿学校編」の台本や原作を読んだ時の印象はいかがでしたか? 坂本:ここだけ切り取って読んでも面白いですし、『黒執事』の世界観をよく知らない人でも入りやすい内容だなと。一つの大きな謎を追う途中で小さな謎についてもどんどん明かされていくので、サスペンス仕立てのストーリーを追う爽快感があって。でもシエル自身は普段とは違った、同年代の男の子のような顔を演じてみせる場面が多くて、いつもの黒執事とは一味違う雰囲気なんですけど、物語の終盤でダークな一面が出てくると一気に「あ、やっぱり『黒執事』だったな」と引き戻されるんです。コミカルさとシリアスさのバランスが絶妙で、観ている人を引き込む面白さがありました。 ーー「寄宿学校編」の始まりは他の章と比較するとポップな印象もあります。 坂本:今回のシリーズでは、新キャラクターを演じる声優さんたちの中にも学生時代に原作を読んでいたという方が多くて。男性ファンも意外といらっしゃるようですね。原作のファン層は女性が中心だったのかもしれませんが、アニメ化をきっかけに男性のファンも増えたと聞いたことがあります。だからこそ、今回を機にまた新しいファンが増えてくれたら嬉しいなと思っています。 ーー「寄宿学校編」では、シエルが同世代の生徒たちと交流する中で学生らしい一面を装う場面も。新たに意識した演技のポイントはありますか? 坂本:そうなんです。これまでのシリーズでは葬儀屋(アンダーテイカー)やグレルといった濃いキャラクター……いわゆる人間ではない登場人物たちと絡むシーンが多かったので、シエル役としては常にクールにいようと心がけていました。でも今作のシエルは寄宿学校に普通の学生として潜入しているので、場面によっては感情の起伏も激しくなります。学校生活を送る中で見せる、今までにないシエルの感情表現は新鮮でしたし、自由度の高い役作りができたのは楽しかったです。その一方で、セバスチャンとの二人きりのシーンではいつも通りのシエルに戻るのですが、そのギャップを演じ分けるのはなかなか難しかったですね。15年前の私だったら、そういう細かいニュアンスを表現するスキルが足りなかったかも。積み重ねてきた経験を活かすことができる年齢になって、今の私にはこういう演技も楽しめるようになったんだなと実感しています。 ーー坂本さんから見たセバスチャンの印象を聞かせてください。 坂本:シエルにとってセバスチャンは、利害でしかつながっていないはずのビジネスパートナー。本来なら心を許せる相手ではないんですが、今作を客観的に見ていて、すごく頼っているように感じました。セバスチャンは計算高い悪魔だけど、ついつい惹かれてしまう魅力があるんですよね。冷たさと優しさを使い分ける、一度ハマったら抜け出せないタイプの男性だなって(笑)。でも、坊ちゃんのことは特別に思ってくれているんだろうなというのは随所に感じました。 ーー今回はシエルと学園生活を共にするP4(プリーフェクト・フォー)というキャラクターたちも見どころの一つです。新キャラクターを演じるキャストとの共演はいかがでしたか? 坂本:若手声優さんたちが加わったことで、現場に新しい風が吹き込んだような気がします。リジー(エリザベス)や使用人たちなど以前から登場しているキャラクターたちのセリフを聞くと「ああ、なつかしい」「これぞ『黒執事』!」というわくわく感がよみがえる一方で、P4が登場するシーンでは「こういう切り口があったのか」と新鮮な驚きがあって。彼らのキャラクター造形は原作でもかなり魅力的に描かれているんですが、声優さんが演じているのを聞いて、想像していた以上の存在感を感じましたね。それぞれの個性がすごくはっきりと描かれていて、4人のバランスが絶妙だなと思って見ていました。 ーー第1話の見どころを教えてください。 坂本:やはり最後のセバスチャンの微笑みシーンは圧巻ですよね。主人の望みをかなえようと画策し始める……。15年前とはアニメ制作の技術も進歩しているので、今だからこそ再現できるクオリティの高い表現になっているのではないでしょうか。