長嶋一茂は「今は超一流」 名伯楽の心残り…生かせなかった素質「練習は凄かった」
父の長嶋茂雄氏にコーチをお願い…野村克也氏とは「ケツを向けたまま」
「2人ともずーっとケツを向けたままでしたからね。長嶋さんには本隊の練習が終わった後に別口で1時間ほど、一茂との時間を取っていたので、それまではここで待っていてくださいってベンチの横の部屋に案内したんですけど、ちょっと時間がたったら『伊勢くん、今行きましょうか』って言われて……。『いやいや、もうちょっと待っていてください』って言っても、それから10分くらいしたら、また『伊勢君、今行きましょうか』って」。 この「今行きましょうか」「いや、まだです」のやりとりが2、3回は続いたという。「何ともせっかちな方だなぁと思いましたよ。で、一茂が1箇所でバッティングをしはじめたら、長嶋さん、ノムさんが持っていたノックバットをさっと取り上げて『今のはこうでしたよね、伊勢君』って」。これには野村監督も唖然としていたそうだ。「あの時は面白かったですね」と伊勢氏は当時を思い出しながら笑みをこぼした。 しかし、肝心の一茂は伸び悩んだまま。1993年シーズンには、長嶋茂雄氏が監督に就任した巨人に移籍したが、そこでも結果を残せず、1996年限りで現役を引退した。通算成績は384試合、打率.210、18本塁打、82打点だった。伊勢氏は「パワーがあって、足だってそんなに遅くないし、肩だって強いし、フリーバッティングを見ていたら、これでどうしてリーグ戦で打てないのかっていう選手でしたよねぇ」と、改めて“もったいない選手”だったことを強調した。 それほどの逸材だっただけに、打撃コーチとしては大成させられなかった悔しさもあるのだろう。手を変え、品を変えての指導。いろいろなことをやった分だけ思い入れもあっただけに……。現在、タレントとして活躍中の姿はもちろん、伊勢氏もテレビなどを通じて知っている。「今は超一流になっているじゃないですか。ハワイに別荘まで買ってね」と、何かしらほっとしたように話した。
山口真司 / Shinji Yamaguchi