【バイデン大統領を提訴】日本製鉄「USスチール買収」拒否判断に「米国内から批判の声」が出る理由 橋本英二会長が見据える“トランプ氏とのディール”
アメリカの鉄鋼業界から競争が消える
そもそも、この買収阻止は日本ではなくアメリカにとって打撃となるはずだ。 日鉄の買収阻止に動いたクリフスのゴンカルベス氏は、成功のためには手段を厭わない鉄鋼界のイーロン・マスクの異名を持つブラジル出身のやり手だ。2014年のトップ就任時に46億ドルだった売上高を230億ドル(2022年度)に、83億ドルの赤字だった損益を14億ドルの黒字にまで好転させている。 ただ、その手段は国内企業の相次ぐ買収による規模拡大で、その強引な姿勢にはアメリカ国内からでさえ批判がある。日鉄の6日の発表によれば、ゴンカルベス氏は今回の日鉄の買収阻止の帰結としてクリフスが特定の電磁鋼板の唯一の供給者となる旨を強調し、「価格引上げを行うのです。それ以上行けなくなるまで行きます」と発言したという。 独占による恩恵をクリフスは受けるだろうが、競争が失われることで打撃を受けるのはほかならぬ、アメリカの消費者であり、日米関係そのものだ。
「詐欺的」「嘘」…日鉄が異例の強い言葉で応戦
さらに日鉄の発表資料によれば、クリフスの出身でもあるUSW会長のマッコール氏は、2024年2月の電話インタビューで「本買収(日鉄による買収)を潰したい」と公言。日鉄側が送った買収後の雇用維持の提案も「空約束だ」とつっぱねるなど聞く耳を持たない姿勢を貫いてきた。2024年4月のバイデン氏による「USスチールは完全に米国企業であり、米国人が所有し、米国の鉄鋼労働者が運営する米国企業であり続けるべきだ」という発言を引き出したのだ。 こうしたゴンカルベス、マッコール両氏の姿勢について日鉄は、「CFIUSの審査結果やバイデン大統領の本買収阻止の決定に不当な影響を与えるため、虚偽または詐欺的な発言を行った」と激しい言葉で非難している。 官僚的な体質から「日本の鉄鋼庁」と揶揄されもしてきた日本製鉄から「詐欺的」「嘘」といった強い言葉で構えるファイティングポーズが示されることは異例だ。提訴を受けマッコール氏は「(日本には)中国以上に有害なダンピングの歴史がある」と反論する声明を出したが、現在の鉄鋼価格の低迷の原因は市場の5割を占める中国勢の攻勢によって引き起こされている。中国と同盟国の日本を混同する、かなり不可解な弁明に終始するのは、「大人しく引き下がる日本人」像を抱いてきたがゆえの戸惑いの裏返しではないかとすら思える。 確かに、そもそもUSスチール買収という決断自体が、これまでの日本の鉄鋼業では考えられなかったことなのだ。 かねてから世界の鉄鋼業には、欧州の鉄は欧州の企業が、アジアの鉄はアジアからといった大まかな棲み分けがあり、日本でも、国家的産業と結びつく性格から、国内でつくった粗鋼を加工して海外に輸出することをスタンダードとしてきた。2019年にトップに着任後、新風を吹き込んだのが橋本氏だ。
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