シリーズ「イケてない？広島」

　広島都市圏の大学を卒業し、首都圏の企業に就職する学生が増えています。広島大など5校の平均でみると、5年前より約1割増えました。好待遇で誘う東京の企業に押され、広島県内の企業はあおりを受けているようで…。労働力不足から争奪戦になっている就職活動の実態から人口流出を考えます。 【グラフ】首都圏の企業に就職した広島県内5大学の学生割合や人数は？ 　広島大をはじめ、広島市内で学生数の多い広島修道大、安田女子大、広島工業大、広島経済大の計5校に2019～24年卒の就職先を尋ねた。24年に首都圏に本社のある企業に就職した学生は、19年より121人（8・3%）増の計1576人に上った。首都圏の企業に就職した学生の割合は、広島工業大を除く4校で5・9～1・5ポイント増えた。

内定7社の広島大生「オンライン採用のおかげ」

　「地方大学の僕がこれだけ内定をもらえたのはオンライン採用のおかげ」。広島大法学部4年の男子学生（22）は語る。約30社に挑み、海運や外資系など7社の内定を得た。新型コロナウイルス禍で普及したオンライン面接は広島からでも参加でき、遠方の企業を受けるハードルが格段に下がったと実感する。 　広島大によると、ここ数年は3割以上が東証プライム上場企業への就職を決めている。首都圏の大学だけでは人材を確保できなくなった企業が地方での採用に力を入れているといい、「初めて広大生を採用した企業の担当者が『ご縁ができました』と東京からあいさつに来るほど」と明かす。

地方国立大出身者の「耐性」強み

　広島育ちの「地方耐性」も強みらしい。東京のあるキャリアコンサルタントは「東京育ちだと大阪への転勤でさえ『飛ばされた』とすねたりする。地方国立大の出身者は地方に抵抗がなく、企業が欲しがる」という。 　そうした学生を振り向かせるため、大企業が増やしているのが勤務地限定の「エリア採用」だ。広島修道大は「首都圏の企業に就職する学生の割合が増えているのは、エリア採用の影響も大きい」とみる。

大企業の給与や福利厚生を判断材料に

　大企業の給与や福利厚生を判断材料にした学生もいる。「東京の会社なんて考えもしなかった」と話す広島経済大4年の女性（22）は、大手メーカーの関連会社への就職を決めた。地元志向で広島の企業からも内定をもらったが、月給が4万円ほど高く、都内に約3万円で住める待遇で「どうしても比べてしまう」。 　大企業は、面接やインターンシップで学生を呼び寄せる交通費や宿泊費の負担もいとわない。広島工業大には、採用情報を学内に掲示したいとの首都圏企業の売り込みが引きも切らない。「旅費は出すから東京観光がてら来てくださいという勢いだ」（教学支援部）。バブル期さながらの攻勢の陰で、広島県内の採用担当者の顔色はさえない。