APEC首脳会議の習近平主席「トランプ氏再登場」を意識した言動目立つ
■楽観できない日中関係 確かに、中国外交は「トランプ再登場」という事態を受けて、関係する国々に向けて調整に入っている。ただ、習近平指導部の、日本に対する基本方針が大きく舵を切ったとはいえない。 紹介したように、習主席は「日本人、とりわけ若い世代との人的交流を深めよう。経済活動の協力も進めよう」と石破総理に呼びかけた。しかし、現実には、かつてはノービザだった日本人の中国渡航は、コロナ禍が過ぎたあとも、日本人にはビザを課したまま。ほかの多くの国々にはビザの免除を復活しているのに、だ。 これでは修学旅行の高校生が中国に行けない。ビジネスマンが頻繁に中国に行けない。中国への理解は深まらない。たとえば、ビザの免除措置を復活させるなど、中国側が具体的行動を取れば、中国側の前向きな対日姿勢を、我々も実感できるだろう。中国で暮らす邦人の安全も重要だ。こちらも中国側のきちんとした説明や対応が求められる。 習近平主席が石破総理に発した言葉は、石破総理誕生を機に、日本との関係を一定程度安定化させたい、仕切り直したいという中国側の意思は感じ取れる。一方で、安全保障分野を含め、トランプ次期政権から日本が数多くの要求を突き付けられ、日本がその多くを受け入れながら、アメリカとの関係を重視していくことも、中国は織り込み済みだ。日中関係は楽観できない。 ■トランプ氏を意識して習近平氏が自ら動き出した 習近平主席は、APECの機会を利用して、アメリカのバイデン大統領とも個別会談している。バイデン氏の任期は来年1月まで。この2人にとって、最後の顔合わせだろう。 日本の新聞も、18日の朝刊で、その米中首脳会談の模様を報じている。中国側の報道をみると、習近平氏は、バイデン政権での過去4年間の米中関係を、かなり長い時間かけて振り返っている。協力し合えた点を称え、一方で「アメリカは、時として言行不一致だ」と非難もしている。そして、「人民日報」によると、習主席はこうも言っている。 「小さな庭に、高い壁を築く――これは、大国のなすべき行動ではありません。オープンにしてこそ、人類に幸福をもたらすのです」 これは、バイデン氏でなく、自国第一を掲げるトランプ氏に向けた言葉だろう。そういう意味では、今回のAPECは、自由な貿易環境の推進を明記した首脳宣言を採択した。中国も、それを願っているものだ。いずれにしても、トランプ氏が当選した大統領選挙を受けて、中国が、習近平氏自らが動き出した。
■◎飯田和郎(いいだ・かずお) 1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。
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