リニア中央新幹線工事差し止め訴訟、山梨・甲府地裁は住民の請求棄却
「原告らの請求をいずれも棄却する」 5月28日、山梨県甲府地裁。敗れたとしても原告の訴えをある程度は認めるはずと予想していただけに、新田和憲裁判長による判決言い渡しに、傍聴席から「あー」と小さなため息が聞こえてきた。
リニア中央新幹線(以下、リニア)の工事差し止めを求め山梨県南アルプス市の住民6人が提訴したのは2019年5月8日(※注)。 当地のリニアのルートは高さ20メートル以上の高架橋だ。6人が所有する家屋や工場や田畑を横切るか、間近を通る路線計画となっている。そのため、原告によっては「暮らしていけない」ほど切実な問題と向き合うことになる。 原告の一人、秋山美紀さんは自宅の庭の角をリニアルートが通るが、家屋には掛かっていない。そのため、JR東海は切り取られる庭の角だけ補償するが、秋山さんが求める移転補償には応じない。リニアが開業すると秋山さんは終日、騒音と振動と日陰の中で暮らすことになる。志村一郎原告団長の田畑はリニアルートが横切る部分は補償されるが、高架橋の北側の日陰部分への補償はない。 そして、どの原告も心配するのはリニア通過による不動産価値の下落だ。秋山さんが引っ越そうと思っても、今の立地では誰もその家屋を買うはずがない。 原告は、その予期される被害を幾度も裁判で訴えた。また、梶山正三弁護士は県内のリニア実験線周辺で実際に起きる日照阻害、騒音や振動の問題を確認してもらうため、口頭弁論のたびに現地検証を要請したが、一人目の裁判長だった鈴木順子裁判長は応じず、秋山さんは「あんなに暖簾に腕押しなら、もう原告をやめる」とまで思った。だが、22年4月から交代で就任した二人目の新田裁判長は、当初から現地検証の要請に意欲を見せ、実際に23年9月には実験線周辺と原告居住地周辺の2カ所で実施。原告が求めた証人すべてに尋問も認めた。この姿勢に、原告6人は「この裁判長は期待ができる」と捉えた。 しかし昨年12月末の結審から5カ月もかけて書いたはずの判決文を読むと、そこに原告の主張はまったく認められていなかった。