石井貴子が涙のGⅠ初制覇「心が折れてもう走れない」大ケガから完全復活 波乱のパールカップでベテラン勢が輝く
【「その日にできることを精一杯」】 レース後、石井は「骨が折れてもくっつくけど、(私は)心が折れてしまってもう走れない、そう思ったこともありました。こんな日が来るなんて信じられません」と、辛く苦しい欠場期間を乗り越えての優勝を振り返った。 GⅠの優勝で2020年以来となるガールズグランプリの出場権も獲得したが、その最高峰の争いに向けては「ケガをしてから、大きな目標よりもその日にできることを精一杯やろうと思うようになりました」と、準決勝直後と同じ「その日にできることを精一杯」というフレーズを繰り返してまた一歩ずつ進むことを誓った。 「ケガをする前に比べると足りないことも、できないことも、どうしようもないこともたくさんあります。でも、そこを工夫しながらこの先も一個ずつやっていきたいと思います」 泣きはらした目でそう話した石井の表情はどこか清々しく、栄光も苦境も味わってきた選手にしか表現できない重みを感じさせるものだった。 2024年上半期の締めくくりとも言えるパールカップ。決勝2着の奥井は「泣けるほど声援がすごかったので、1着を届けられなくて悔しい。この結果は『満足するな』と言うことだと思うし、もっと頑張ろうというモチベーションになった」と振り返り、3着の尾崎睦(神奈川・108期)は「タイトルが獲りたい。グランプリが獲りたいという思いはブレずに頑張りたい」と決意を新たにした。 今開催で目立ったのが、ベテラン勢。3日間続けて信念を貫く走りで結果を残した奥井は42歳、尾崎は39歳、そして石井は34歳だ。この活躍は他の選手たちに大きな刺激となったはずだ。彼女たちが巻き起こした風は今後どのように広がっていくのか、下半期の戦いからも目が離せない。
【Profile】石井貴子(いしい・たかこ)1990年2月17日生まれ、岐阜県出身。中学・高校・大学とアルペンスキーに励んだのち、社会人を経て競輪に転向。2014年、24歳の時にデビューする。自転車競技のナショナルチームの一員として国際大会にも出場し、2016年ワールドカップのケイリンで8位の成績を残す。ガールズケイリンでも数々のビッグレースに出場。2018年にガールズケイリンコレクション、2019年にガールズケイリンフェスティバル、2020年にガールズドリームレースを制すなど、ガールズケイリン界をけん引する存在だった。2021年に落車により大ケガを負い、その後もケガに見舞われたため、目立った結果を残せなかったが、懸命なリハビリとトレーニングで復帰し、2024年6月の第2回パールカップで優勝を果たした。
ハル飯田●取材・文 text by Haru Iida