映画『ありふれた教室』熱心な若い教師がことごとく追い詰められていくスリラー
【Culture Navi】CINEMA:今月の注目映画情報をお届け!
Navigator ●折田千鶴子さん 映画ライター 卒業式&入学式と行事続きで体調を崩しました。でも開花がズレたおかげでむしろ花見だワッショイ!
『ありふれた教室』
▶熱心な若い教師がことごとく追い詰められていくスリラー このタイトルにして“サスペンススリラー”と聞くと、思わずドキリとさせられる。今年の米アカデミー賞国際長編映画賞にノミネート(日本の『PERFECT DAYS』とともに)されたこのドイツ映画は、教育現場がいつの時代も抱える“何か問題が起きたときの犯人捜しの是非”やその解決の難しさをあらためて思い起こさせつつ、現代ならではの状況を織り込んで懊悩を深くさせる。しかも描かれるのはたった数日。ひとつ対応を間違えると、もはや取り返しがつかなくなるスピード感の恐ろしさも、現代ならでは? 果たして主人公は、どこでどう間違えた!? 鼓動が速まり、もう目が離せない! 仕事熱心な若手教師カーラは、新たな赴任先の中学で1年生を担任。人種的なルーツが多様な同僚や生徒からの信頼も獲得しはじめていた。そんなある日、校内で相次ぐ盗難の犯人として、自分のクラスの子が疑われる。徹底的に調査する方針の校長のもと抜き打ち検査が行われ、大金を所持していた疑惑の生徒は両親を呼び出される。しかし両親は従兄弟へのプレゼント代として自分たちが渡したものだと証言、気まずい空気だけが残る。そんな強引なやり方に疑問を抱いたカーラは、早く真犯人を見つけるべく、財布を入れた上着を椅子に掛け、PCのカメラをオンにして席を離れる。ところがそこに映っていたのは、ベテラン事務員クーンの星柄ブラウスだった。しかも彼女の息子もまた自分のクラスの優秀な少年オスカーで……。カーラは直接クーンに尋ねるが、彼女はキレて全面否定。仕方なくカーラはすべてを校長に打ち明けるが――。 そこからの展開が一気! クーン犯人説や盗撮の噂は瞬く間に広がり、カーラが動けば動くほどドツボにハマっていく。オスカーをそしる生徒もいる中で、母親を信じるオスカーは友達を誘導して結束し、生徒は授業をボイコット。保護者会にもクーンが現れ、“盗撮教師”だとカーラを突き上げる。もはや四面楚歌状態。確かに盗み撮りはアウトかもしれないが、無駄にこれ以上生徒を疑いたくない気持ちからの行動だったのに……。ハラハラ固唾をのみながら、“じゃあ、どうすればいいの!? ほかに何ができた!?”と胸を掻きむしりたくなる。 観る者はカーラの立場のみならず、自分が保護者だったら、自分が生徒だったら、自分がほかの教師だったらと、たくさんの“もし”を頭に浮かべてシミュレーションせずにいられなくなる。それでも何が正しくて間違いかわからず、悶々としてしまう。なるほど監督の狙いどおり、これは“学校”という空間だから起きた特有の事態ではない。まさに現代社会の縮図であり、そこかしこで起こり得る“ありふれた現実”なのである。人は信じたいものを自ら率先して信じ、誰かを突き上げることで自分の正義を固くする。これまたイヤ~な現代の風潮を突くが、そのいかにもスリラー的な圧迫感から、“それを変えなきゃ”と実感し焦燥する意義は、きっと大きいと信じたい。 5月17日より新宿武蔵野館ほかで全国公開 ※公式サイト あり