就職活動に有利にはならない? ギャップイヤー「制度化」について考える
ギャップイヤーを推奨する動きが、企業や大学で広がりつつあります。例えば、ソニーは新卒採用試験のエントリーを、在学中の学生に限らず、卒業後、3年未満の方を対象にしています。東京大学では入学初年度に、1年間の特別休学期間を取得することができます。企業や大学が推奨し、制度化が進むことで、若者が安心して利用することができるようになってきていますが、ギャップイヤーを経験することで、就職活動などメリットはあるのでしょうか? ■海外志向の若者達 ギャップイヤーを簡単に一言で説明するなら、「進学・就職など通常のレールから一度外れて経験を積むこと」、ということになるかと思います。ギャップイヤーのイメージは留学やボランティアなどと重なるものが多く、休学をして海外を志向するものがほとんどです。実際、昨年池袋で開催された、ギャップイヤーについて悩みのある学生が集ったイベント「ギャップイヤーフェア」では、『海外』ブースに学生が集中し、『国内』ブースへは経済的事情で海外に行けない、という学生が数人集まるに留まりました。一人の学生は「せっかくのギャップイヤーなんだから、日本でやっても意味が無い」と話し、またイベントに関わる社会人の一人は「学生がギャップイヤーを生かせるように、海外の情報や渡航のサポートをしたい」と言います。さて、この流れはギャップイヤーの本質を捉えたものなのでしょうか。 ■ギャップイヤー「制度化」の矛盾 ギャップイヤーの習慣を日本で広めるために2010年にスタートしたWebマガジン “Gapyear.jp" の発起人・石渡章義氏によれば、そもそもギャップイヤーは学生や若者の自由意志による取得と、それを許容する社会の実現が理想だといいます。「大学や企業が『グローバル人材育成』とか『人間形成の手段』と標榜し、学校カリキュラムや企業の人材育成制度といった『システム』の一部に組み込まれていくことに危惧を感じています。またギャップイヤーを取った人が企業や社会で優秀な人材になれるかのような位置付けにも抵抗があるんですよね」。石渡氏はかなり早くからギャップイヤーの問題に取り組んで来られましたが、少しずつギャップイヤーそのものが認知されるにつれ、大学主導で運用されるようになり、また企業や団体が介入することはギャップイヤー先進国を追うどころか「ガラパゴス的システム」である、と釘を刺します。 ■「別の道」を許容する社会へ 以前からギャップイヤーに理解のある海外ではギャップイヤーを取った学生の就職率は高くなるというより、影響しないという声も聴きます。つまりいわゆる就活をせずに独自の経験を積むことがマイナスにならないということですね。日本においては、どうも損得で議論されているケースが多いように見えます。本来、専攻の学業に集中することが大学の意義ですから、それ以外の道を否定することなく、またそちらに誘導することもなく、特に損も得もないという状態が理想的に感じます。 ギャップイヤーを就活に利用しようという学生は沢山います。あるいは就職がどうしても嫌で、社会が認めるモラトリアムを求めている学生も多いようです。また、学生支援の名の下に、ギャップイヤーを利用しようとする業者や団体も沢山あります。就職を目的の一つにするとしても、多くの学位や資格と同様、ギャップイヤーを取ること自体が価値なのではなく、人と違う経験することによって実力を付けることが大事なのは当然で、企業にとってどんな視点やスキルがある人材に価値がおかれているのかを視野に入れる必要があります。 大学の秋入学検討や、留学ブームによって、にわかに形態が見えて来た、つまりシステム化してきた感のあるギャップイヤーですが、そもそもレールから外れることが一つの意義ですから、制度化すること自体がナンセンスで、大学などの学校機関が制度化してしまったらレールの内側になってしまうわけです。制度化するのではなく、制度から外れたが、オリジナルな経験を積んできた若者を受け入れる社会を作っていくことが必要なのではないでしょうか。 (矢萩邦彦/studio AFTERMODE) ---- 矢萩邦彦(ジャーナリスト/アルスコンビネーター) 教育・アート・ジャーナリズムの現場で活動し、一つの専門分野では得にくい視点と技術の越境統合を目指す日本初のアルスコンビネーター。予備校でレギュラー授業を持ちながら、全国で私塾『鏡明塾』を展開。小中高大学でも特別講師として平和学・社会学・教育学を中心に講演多数。代表取締役を務める株式会社スタディオアフタモードでは若手ジャーナリスト育成や大学機関との共同研究に従事、ロンドンパラリンピックには公式記者として派遣された。