交換レンズ1億本のキヤノン 偉業を支えた飽くなき探究心
キヤノンが4月にカメラ用交換レンズの累計生産本数を世界で初めて1億本を達成した。1987年3月に製造されて以来、約27年かけての大台到達。当時は、フィルム用カメラの交換レンズとして製造され、2000年代前半にデジタルへ大きく移行する。その道のりは決して平坦ではなかったが、商品を企画するチーム、そして開発陣との高い志が偉業を成し遂げている。
約20年、同社の交換式レンズの商品企画に携わっている家塚さん。「10数年前に1000万本を達成したとき、『すごい数字になったね』と話していたのを覚えています。95年に達成したのですが、製造開始から8年。当時は、1億本とか、考えたことがなかったですね」と振り返る。フィルムカメラの全盛期。カメラやレンズ自体も高級品だったが、“使い切り”となるフィルムは高コストだったため、シャッターを切る回数は自ずと限られていた。「フィルム代と現像、プリント代で当時は2000円くらいかかっていた」(家塚さん)。また、交換レンズ式のカメラを多くの人が所有できる時代でもなかったため、1億本は考えつかない数字だった。 そんな中、大きな変革期を迎える。デジタル一眼カメラの入門機、EOS Kiss デジタルが2003年に発売される。「8年かかって、1000万本でしたが、2003年にEOS Kiss デジタルが出て、ここから一眼レフが急激に伸びました。このシリーズの普及が大きかったですね」(家村さん)。低価格にも関わらず、レンズに『手振れ補正』機能を備えるなど、初めて一眼レフカメラを使うユーザーでも簡単にきれいな写真が撮れるよう工夫されており、多くのユーザーに支持されることとなった。これがきっかけで、交換式レンズの販売数は劇的に伸びていく。「デジタルカメラの争いで、ずば抜けたカメラが出てきた。レンズは世界ナンバー1を揃えていると思っていた」(家塚さん)と、市場のシェア争いに自信があったという。 デジタルカメラに移行するにあたり、技術的な工夫もしっかりと取り入れた。それまでのフィルムは、平面のように見えても実は波打っていた。そのため写真に白っぽく写り込むフレアやゴーストは、あまり出なかったという。一方で、デジタルカメラは平面性が高いのでゴーストがでやすい。「レンズのコーティングの工夫。レンズの配置(交換式レンズには複数のレンズが配置)を、フレアやゴーストが出にくいよう考えるとか、フィルムとは違う設計をしました。実は、デジタル時代がくる、ということで、早い段階でそれに向けて設計をかえていった」(家塚さん)と、来るべき時代に備えていた。