ガザで起きている「生存を懸けた戦い」、展望は、課題は イスラエル、パレスチナ、エジプトの識者3人に聞いた
「占領終結、唯一の解決策」 イスラエルとハマスの戦闘は、安全保障は軍事力で得られると考えるイスラエルの戦略的誤りを露呈した。イスラエルはこの戦闘をハマスによる昨年10月7日の奇襲への反撃だとするが、ハマスは奇襲をイスラエルによるパレスチナ占領の結果だと捉えている。パレスチナ占領終結なしにハマスの抵抗は終わらず、衝突は続く。イスラエルは占領終結という政治的解決が唯一の道だと認識する必要がある。 イスラエルは今、ジレンマに陥っている。この戦闘で軍事的解決に固執すれば、戦闘後もパレスチナ自治区ガザを再占領しなければならない。イスラエルは2005年に軍事的、政治的、倫理的負担に耐えかねてガザから撤退した。ガザ再占領となれば、再び重荷を背負うことになる。 イスラエルとハマスとの間で一時的な戦闘休止は可能だろうが、戦闘の終結は見えない。双方が「生存を懸けた戦い」と捉えているためだ。 中東は現在、イスラエルとイランの「戦略的バランス」で成り立っている。イスラエルがイランの代理勢力に過ぎないハマスに軍事的に勝てないとなると、バランスは崩れ、イランが中東を支配することになる。イスラエルにとっては「終わりの始まり」だ。またイスラエル軍がガザから撤収すれば、ハマスが政治的にも軍事的にも再建されるのは時間の問題だ。
一方、イスラエルが軍事的に勝利しガザを再占領すれば、ハマスはそのまま壊滅する。ハマスにとって唯一のカードは人質で、戦闘終結につながらない一時的な戦闘休止のために全人質を解放することはできない。 ハマスの目標はガザの統治者として残るとともに、パレスチナ自治政府に代わり、パレスチナ代表として国際社会で認知されることだ。だが、イスラエル国内を見れば、パレスチナ国家樹立に反対する右派や極右が多数派で、パレスチナの占領継続を求めている。このままでは「2国家共存」は困難だ。(2024年3月28日取材) × × × 1954年、ヨルダン川西岸北部ナブルス生まれ。マドリード中東和平会議(1991年)のパレスチナ代表団メンバー。現在は西岸のビルゼイト大講師。 【サミール・ファラグ氏(エジプトの軍事政治評論家)】 「イスラエルは目標未達成」 イスラエルとハマスのパレスチナ自治区ガザでの戦闘は半年が経過したが、ハマスが断固抵抗しており、イスラエルは「人質解放」「ハマス壊滅」「ガザからの脅威の除去」という目標をいずれも達成していない。戦闘休止や人質解放を巡る間接交渉では、イスラエルもハマスも強硬姿勢を崩さず合意は難しい状況だ。イスラエルは米国の軍事支援に頼っており、米国が軍事支援を中止すれば、戦闘終結に至るだろう。