『さよならマエストロ』指揮者=中間管理職? 『のだめ』『リバオケ』との巧みな差別化
西島秀俊を“理想の上司”として描いた『さよならマエストロ』
夏目は前二作のマエストロが俺様キャラだったのに対し、天才ではあるが、人当たりがよく家庭ではしがない不器用な父親として描かれているのが新鮮に感じる。「指揮者は間違いを見つけて叱る先生じゃありません。オケと一緒にこの作品を演じる仲間です」という台詞が作中にあったように、楽団員がミスをしても怒鳴りつけることはないし、ましてや過去の栄光を誇示して踏ん反り返るといったようなこともしない。だが、さすがはもともと世界で活躍するマエストロなだけあって、アドバイスは的確だ。難しい音楽用語ではなく、素人でも分かりやすい指導方法で楽団員を導いていく。 夏目の根底には技術をつけることよりもまず、演奏する本人が楽しくなければ意味がないという考えがあるのだろう。楽団員一人ひとりが何に悩み、どうすれば思うような音を出せるかと真剣に頭を悩ませ、楽団員同士が揉めるようなことがあれば、間に入って仲を取り持つ。そんな夏目はさながら、学校の教師や、中間管理職のようだ。みんなの輪の中にいて、全体を俯瞰している。「こんな人が先生だったら」「こんな人が上司だったら」と夏目に対して思う人も多いだろう。 まさに夏目は指揮者になるべくしてなった人であり、音楽を愛し、愛された男でもある。そういう定めを背負って生まれた才能のある人間はそばにいる人を少し切なくさせるのかもしれない。光が多いところでは、影も強くなる。響はもともとコンクールで優勝を期待されるほどの腕前を持ったヴァイオリニストで、父との共演を夢見ていた。だが、その圧倒的な才能を前に重圧もあったのか、挫折。そこにきて事故に遭い、夏目が目の前のステージを優先したことで親子の溝が開いてしまったのだろう。響だけではなく、妻の志帆(石田ゆり子)も音楽以外はさっぱりな夏目の世話を焼くうちに自分の夢がおざなりになっていたことに嫌気が差し、子供たちと一緒に夏目の元を去ってしまった。家族の心がバラバラになっている状況に息子の海(大西利空)は孤独を感じている。 こうしたホームドラマとの融合で本作は他のオケドラマとの差別化を図っている。果たして家族は再び一つになることができるのか。第9話では、ついに夏目と響の和解が描かれる。
苫とり子