それでも「アブラハム合意」に基づく「アラブとイスラエルの接近」が終わることはない
日本経済新聞コメンテーターの秋田浩之が11月14日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。イスラエル・パレスチナ情勢について解説した。
World Policy Conference(ワールド ポリシー カンファレンス)
飯田)秋田さんは11月3~5日に、アラブ首長国連邦(UAE)のアブダビで開かれた「World Policy Conference」に参加したそうですね。 秋田)アブダビの会議では主に中東や、フランスが主催する会議ですのでヨーロッパ、またアフリカからも大勢の政治家、識者が来ました。当然ですが、いまの中東情勢が話題になりました。 飯田)イスラエルとハマスの戦闘が行われている最中ですからね。
イスラエルが多くの死傷者を出したことへの反発
秋田)2つ発見がありました。1つは、いま中東の上空に、方向性がまったく逆の2つの気流が渦巻いています。1つは当然、憎悪や怒りの感情で、パレスチナ問題をめぐるものです。特にイスラエルが死傷者を大勢出してしまっていることについては、かなり反発が聞かれました。
アブラハム合意に基づくアラブとイスラエルの接近が終わることはない ~スローダウンしても反転することはない
秋田)ただ、もう一方で「地政学のベクトル」も相変わらず消えてはいないのだなと思いました。長期的には、こちらの方が重要だと思います。いまは感情の部分でぶつかり合っていますが、共通の脅威であるイランに対応するため、「アラブ諸国とイスラエルが接近する」という動きです。2020年秋から「アブラハム合意」のもとに、それまでずっと宿敵だったアラブ、特にサウジアラビア、バーレーン、モロッコ、UAE。このうちサウジアラビアはまだですが、参加国の湾岸アラブ諸国が、イスラエルと電撃的な国交樹立を決めました。これは事実上、イランに対抗するためにアメリカが主導した「反イラン連合」なのですが、地政学の計算から結びつくのです。サウジアラビアも、つい最近まではイスラエルとの国交正常化が言われていました。
アブラハム合意は長期を見据えた国家戦略の決定
秋田)それが「もう壊れてしまったのかどうか」が今回、私の最大の関心でした。いろいろと個別に話を聞くと、UAEやエジプト、サウジアラビアの人もいましたが、「アブラハム合意に基づくアラブとイスラエルの接近が終わることはない」と言っていました。 飯田)そうなのですね。 秋田)アブラハム合意に関与している国のある高官は、「これは長期を見据えた国家の戦略決定だ」と言っていました。ですので、いま起きている情勢によって多少スローダウンはするけれど、「反転することはない」と言っていたのが印象的です。 飯田)イランの思惑とは違ってくる。 秋田)ハマスはそれを壊そうとしたのですが、傷は付いても完全に消滅はしないというような話でしたね。 飯田)それは現地に行かないと、なかなかわからないですよね。 秋田)彼らは表立っては言いません。私が今回会議へ行ったいちばんの目的は、「アブラハム合意」という地政学接近が終わるのかどうか、本音を聞こうと思って行ったのです。会議でそのようなことを公式に言う人はいませんが、会場で個別に話を聞くと、だいたいみんな「いまは静かにしているけれど、途切れることはないだろう」と話していました。